2018 Fiscal Year Research-status Report
餌生物の違いがカイアシ類の成長生産に与える影響に関する実験生態学的研究
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18K14506
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松野 孝平 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (90712159)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 海洋生物学 / 動物プランクトン / 植物プランクトン / カイアシ類 / 摂餌 / 同化効率 / 成長 / 呼吸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、船上および陸上実験室において実験生態学的な手法を用い、カイアシ類の摂餌から成長・生産過程に関わる生理活性に、餌生物の違いが与える影響を明らかにすることを目的としている。平成30年度は、北海道大学附属練習船おしょろ丸の北洋航海(2018年6月14日~8月2日)に参加し、北部ベーリング海においてカイアシ類の餌環境である植物プランクトン試料採集、カイアシ類の採集および船上飼育実験を行った。船上飼育実験では、優占するカイアシ類の消化管色素量と1個体重量を測定し、摂餌速度を評価した。同時に、植物プランクトン試料も採集し、餌環境も評価した。また別途、Remotely Operated Vehicle (ROV)による水中画像撮影を実施し、水柱内での動物プランクトンの詳細な鉛直分布の測定も行った。これらの観測により、室内実験での飼育条件の選定を行うことができた。本研究に関連する研究成果としては、査読付き論文3報および学会での口頭及びポスター発表を8件行った。 平成30年度の研究成果において、最も重要な成果としては、秋季の太平洋側北極海で強風イベントを起因とする植物プランクトンブルームを観測し、同時にカイアシ類の摂餌速度が上昇することを明らかにした。また同観測において、植物プランクトンの優占分類群も短期間で変化し、珪藻類の割合が増加していた。加えて、カイアシ類が主に摂餌していたのは珪藻類などのマイクロサイズの植物プランクトンであった。これらのことから、カイアシ類は餌の種類が変化するとそれに応じて摂餌速度を速やかに変化させることが示された。これは、本研究課題の根幹である、餌生物が変化した際にカイアシ類がそれに応答することを示しており、餌生物の違いが摂餌以外の成長、同化効率、呼吸へ影響を及ぼす可能性を示唆している点で重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、北海道大学附属練習船おしょろ丸の北洋航海(2018年6月14日~8月2日)に参加し、北部ベーリング海において試料採集と船上実験を行った。航海中、ニスキンボトルによる各層採水によって植物プランクトン試料を得た。これを解析することにより、動物プランクトンにとっての餌環境(植物プランクトンの種組成や量)の鉛直的な変化を明らかにすることができる。本年度の航海では、さらにRemotely Operated Vehicle (ROV)による水中画像撮影を実施し、水柱内での動物プランクトンの詳細な鉛直分布の測定も行った。先述の餌環境の鉛直分布と動物プランクトンの鉛直分布を比較することにより、実際の水柱内で動物プランクトンが摂餌している餌環境を明らかにすることができるため、室内飼育実験を設定する際の重要な知見となる。 動物プランクトンを用いた船上飼育実験としては、プランクトンネットによって生鮮動物プランクトンを採集し、カイアシ類の1個体重量と消化管内色素量の測定を行った。これらのデータは、摂餌速度や呼吸速度を異なるカイアシ類種間で比較する際に体重で標準化するため、本研究課題において必要不可欠な情報である。 本年度の達成状況を示すものとして、研究代表者は関連する研究テーマについて2018年5月21日に日本海洋学会より日本海洋学会岡田賞を受賞した。また、アウトリーチ活動として、関連する研究テーマに関する2回の講演と1件の新聞記事掲載および一般向けの図書の分担執筆を行った。 このように、船上飼育実験によるデータ取得と、陸上実験室での各種実験(摂餌速度、同化効率、呼吸速度、排泄速度)の設定に関わるデータが概ね揃ってきた。さらに、関連する賞の受賞やアウトリーチ活動の実施は、本研究課題の進捗状況が順調であることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題を達成するために、本研究では以下の5つのサブテーマを設けている。それぞれ1.カイアシ類の摂餌および餌選択性の評価、2.カイアシ類の成長における餌生物の影響、3.カイアシ類の同化効率における餌生物の影響、4.カイアシ類の呼吸速度における餌生物の影響、5.成果発表である。 今後は、餌の種類によるカイアシ類の各パラメーターに対する影響を評価するために、実験を積み重ねていく。サブテーマ1に関しては、消化管色素量に基づく摂餌速度を評価出来たが、餌選択性に関しては追加の船上実験を行っていく必要がある。サブテーマ2に関しては、予定していた手法を少し改変する。北海道大学附属練習船おしょろ丸およびうしお丸の観測航海、JAMSTECみらい北極航海に参加し、生鮮カイアシ類個体群を採集する。それを複数に分割し、室内で予め培養しておいた植物プランクトン株を添加し、数日間飼育することで餌環境ごとの成長の差を評価する。サブテーマ3に関しては、十分な培養株と餌環境情報が揃ったので、サブテーマ1と4と並行して室内での実験を進めていく。また、函館湾での定期的な観測も実施し、生鮮動物プランクトンを陸上実験室に持ち帰り、飼育条件をコントロールした状態で各種実験を行っていく。さらに、海底堆積物を培養することにより、発芽してくる植物プランクトンを単離し、新たな培養株作成を進める予定である。得られた実験データは、随時論文にまとめ発表していく。
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Causes of Carryover |
研究室所有の船上実験時に使用する小型クールインキュベーターが2018年6-8月に実施した北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸航海で壊れたため、購入を計画していた。しかし、年度末までに学会発表や研究打ち合わせのための出張費がかさんだために購入費(およそ20万)を賄えなかった。そのため、次年度使用額が生じた。次年度では、5月にあるおしょろ丸の航海までに小型クールインキュベーターを購入し、船上実験を実施する。
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Research Products
(13 results)