2019 Fiscal Year Research-status Report
餌生物の違いがカイアシ類の成長生産に与える影響に関する実験生態学的研究
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18K14506
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松野 孝平 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (90712159)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 海洋生物学 / 動物プランクトン / 植物プランクトン / カイアシ類 / 摂餌 / 同化効率 / 成長 / 呼吸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、船上および陸上実験室において実験生態学的な手法を用い、カイアシ類の摂餌から成長・生産過程に関わる生理活性に、餌生物の違いが与える影響を明らかにすることを目的としている。令和元年度は、JMSTEC海洋地球研究船みらいの北極航海(2019年9月27日~11月10日)に参加し、太平洋側北極海においてカイアシ類の餌である植物プランクトンおよびカイアシ類の採集を行った。採集したカイアシ類を用いて、消化管色素量を測定し、摂餌速度を求めた。同時に、安定同位体および脂肪酸組成も分析している。これらの情報を総合的に解析することで、餌の状態(密度や組成)によりどのようにカイアシ類の摂餌が変化するのか、さらにカイアシ類自身の状態(油球蓄積の多寡など)による影響も評価することができると期待される。本研究に関連する研究成果としては、査読付き論文3報、査読無し論文4報、学会での口頭及びポスター発表を15件行った。 令和元年度の研究成果において、最も重要な成果としては、太平洋にしか分布していないカイアシ類(太平洋産種)が北極海内に輸送された時に、あまり餌を摂餌していないことを船上実験で明らかにした点である。北極海内の海氷減少とともに、南方種である太平洋産種が北極海内に侵入する数が増加していることが観測されているが、その輸送された種が北極海内の生態系にどのように影響を及ぼすかは報告が無かった。本研究課題により、輸送された先の北極海内では、太平洋産種による摂餌の影響は大きくないことが定量的に示された。また逆にカイアシ類の視点から考えると、従来の分布域(北太平洋亜寒帯域)での摂餌と比べて、北極海内での摂餌速度は低かったために、北極海内の餌環境は好ましくないものと捉えることもできる。この結果から、不適な餌環境に遭遇すると、カイアシ類の摂餌速度は下がり、それを受け生理活性も下がることが推察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は、JMSTEC海洋地球研究船みらいの北極航海(2019年9月27日~11月10日)に参加し、太平洋側北極海においてカイアシ類の餌である植物プランクトンの試料採集およびカイアシ類の採集を行った。カイアシ類の餌情報として、ニスキンボトルによる各層採水によって植物プランクトン試料を得た。これを解析することにより、植物プランクトンの種組成や量の空間的な変化を明らかにすることができる。 本年度の航海では、カイアシ類の安定同位体と脂肪酸組成も測定している。これらのパラメーターは、カイアシ類が経験してきた環境情報の蓄積したものと考えることができる。特に、脂肪酸は植物プランクトン由来であるため、その組成分析を行うことにより、そのカイアシ類が摂餌してきた植物プランクトンの組成を見積もることができる。この分析を、同種について広域で行っているため、海域による植物プランクトン組成の長期的な違いと、カイアシ類の個体群構造(成長度合い)を比較することが可能となる。また、別途行った採泥により、海底に蓄積している植物プランクトンの休眠期細胞も分析するため、カイアシ類の脂肪酸の結果と比較することができる。最終的には、餌(植物プランクトン組成や量)の違いによるカイアシ類の成長への影響に関わる知見が得られると期待できる。 本年度の達成状況を示すものとして、多くの学会発表を行ったことが挙げられる。また、アウトリーチ活動として、関連する研究テーマに関する2回の新聞記事掲載および一般向けの図書の分担執筆を行った。 このように、海洋観測による試料採集とデータ取得を継続的に行っており、得られた成果を論文として発表しつつある。さらに、学会での多数の発表とアウトリーチ活動の実施は、本研究課題の進捗状況が順調であることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題を達成するために、本研究では以下の5つのサブテーマを設けている。それぞれ1.カイアシ類の摂餌および餌選択性の評価、2.カイアシ類の成長における餌生物の影響、3.カイアシ類の同化効率における餌生物の影響、4.カイアシ類の呼吸速度における餌生物の影響、5.成果発表である。 今後も、餌の種類によるカイアシ類の各パラメーターに対する影響を評価するために、実験を積み重ねていく。サブテーマ1に関しては、これまでの実験の結果による成果報告で、概ね目的は達成できている。サブテーマ2に関しては、昨年度からさらに手法を変更している。直接的にカイアシ類の成長の変化を検出するには、長期間の飼育が必要であり、現状のファシリティでは適切でないことが分かってきた。解決策として、上述のように、カイアシ類の脂肪酸分析と個体群構造を比較することで、植物プランクトンの長期的な影響と成長との比較が可能と考えている。この手法により、目的達成を目指す。サブテーマ3と4に関しては、培養株と餌環境情報は揃ったが、新型コロナウイルスの影響により2020年度中の調査航海実施が未確定となっている。そのため、代案として、函館湾を中心とした沿岸域での定期的な観測に力を入れ、試料を採集し、可能な限り実験を進める予定である。上記の研究推進により、得られた成果は、随時論文にまとめ発表していく。
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Causes of Carryover |
3月に開催予定であった学会および研究打ち合わせが新型コロナウイルスによる影響で、オンライン開催となり、旅費が必要なくなった。そのため、次年度使用金が生じた。2020年度は、学会開催が困難な状況を鑑みつつ、成果を可能な限り報告し、目的達成を目指す。
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Research Products
(22 results)