2018 Fiscal Year Research-status Report
好適環境の利用率からアプローチするイワシ類資源量変動メカニズム
Project/Area Number |
18K14516
|
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
西川 悠 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球情報基盤センター, 特任研究員 (10625396)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 資源量変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、好適環境利用率という指標を導入し、資源量変動に対する重要性が指摘される海洋環境変動・仔魚の輸送分散・種間競争の寄与を定量化し、相対評価することである。好適環境利用率は、高成長となる海域に分布する仔魚の割合を表す。成長の早い仔魚は生き残って資源に加入する確率が高いため、この指標は資源量変動に対応する。本研究では、1978年から直近年までを対象に、毎年の資源量が海洋環境変動・仔魚の輸送分散・種間競争からどれだけの影響を受けたかを明らかにするため、以下の8つの工程からなる研究を実施する予定である。 1. 流動場およびプランクトン密度分布データの準備、2. 耳石解析、3. 耳石解析結果に基づく好適な水温・餌環境の設定、4. 好適環境の時空間分布推定、5. 仔魚分布場と好適環境のマッチングによる好適環境利用率の計算、6. 種間競争を考慮した好適環境利用率の再計算、7. 利用率推定の妥当性の確認、8. 利用率経年変動の解析 2018年度は、当初の計画に沿ってこのうち1. 海洋環境場およびプランクトン密度分布データの準備、2. 耳石解析を実施した。さらに耳石解析結果を用いた研究を行うに先立ち、マイワシの資源量変動データと1の海洋環境データ間の相関解析を行い、どのような海域がマイワシにとっての好適環境であるかを推定した。また、海外の類似種であるカリフォルニアマイワシ・カタクチイワシの時空間分布と成長生残、資源量変動に関するデータが入手可能となったため、当初の研究予定には含まれていなかったが、海域間比較によって本研究を一層発展させることを目的とし、カリフォルニアマイワシ・カタクチイワシの好適環境利用率が資源量変動に与える影響についても研究を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、当初の予定通り好適環境の検出と仔魚の輸送分散推定に使用する流動場・プランクトン密度分布データを海洋大循環モデルのシミュレーションによって準備するとともに、過去の研究航海で採集したイワシ類仔魚サンプルの耳石輪紋数・間隔と体長を測定して日成長率を求めた。2006年から2012年にかけて日本近海で行われた計9回の研究航海で採集した冷凍サンプルに対し種判別と耳石の取り出し・解析を行い、耳石の日輪間隔からマイワシ994個体、カタクチイワシ2690個体の成長データを得た。 耳石解析結果を用いた研究を行うに先立ち、好適環境分布域の目安をつけるため、マイワシの資源量変動データと海洋環境データ間の相関解析を行って、マイワシ仔魚の好適環境が長期に渡って日本近海の黒潮流軸付近に存在する可能性を示した。この結果は論文にまとめ、Fisheries Oceanography誌に投稿した。 また、カリフォルニア海流域の海洋大循環モデル、低次生態系モデル、マイワシ・カタクチイワシの成長生残モデルを組み合わせたシミュレーション結果を解析し、カリフォルニアマイワシとカタクチイワシでは好適環境の分布が時空間に若干異なること、その違いのためにカリフォルニア海流域で気候変動が起こったとき、両種の資源量の応答が大きく異なることを明らかにした。この結果は論文にまとめ、Progress in Earth and Planetary Science誌に投稿した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は研究計画に従い、耳石解析結果に基づき、マイワシとカタクチイワシの日成長率と水温・プランクトン密度の関係を調べる。ある値以上の成長率となる仔魚が資源量変動に寄与すると仮定し、この基準を満たす水温・餌条件を決める。次に好適環境となる水温・餌の条件を海況に当てはめることで、各年各月の好適環境の分布状況を調べる。次に産卵場からの粒子追跡シミュレーションから、好適環境に輸送される仔魚の割合を調べ、仔魚分布場と好適環境のマッチングによる好適環境利用率の計算を行う。両種の仔魚分布場に重複があった場合、重複海域では餌をめぐる種間競争が発生すると考えられる。そこでこの場合は重複海域において他種の摂餌によって減る分のプランクトンを減少させても好適環境となるかを再計算する。次に最終的な利用率経年変動と加入量変動が対応しているかを調べる。対応していない場合は、好適環境選択の基準値に問題があると考えられるので、最初に行う好適環境の基準の選定に戻って基準を決め直す。利用率が加入量経年変動と対応していれば、毎年の利用率が海洋環境変動・仔魚の輸送分散・種間競争からどれだけの影響を受けて決まったかを調べる。以上の研究から得られる結果は順次関連学会の研究発表大会で発表するとともに、論文にまとめて国際誌に投稿する。 また本研究は当初マイワシとカタクチイワシの2種に限って行う予定であったが、マイワシ・カタクチイワシと分布域や食性の近いサンマ仔魚についても耳石サンプルが得られる見通しが立った。この3種の好適環境がどのように異なるかも水産学上大変興味深い問題であるので、次年度以降順調に研究が進展した場合はサンマの好適環境と資源量変動メカニズムをマイワシ・カタクチイワシと比較することを検討している。
|
Causes of Carryover |
2018年度は耳石の解析に必要な費用を計上していたが、一部の耳石は解析済みのデータを利用することができたため、想定より使用額が減少した。当該助成金は次年度分と合わせて追加の耳石解析の費用として使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)