2018 Fiscal Year Research-status Report
魚類の胚によるグリコーゲン利用機構の解明と環境ストレス耐性卵の作製
Project/Area Number |
18K14524
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
古川 史也 北里大学, 海洋生命科学部, 助教 (80750281)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ゼブラフィッシュ / 発生 / 代謝 / グリコーゲン / 糖 / 魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
魚類の発生過程においては、卵黄内のタンパク質や脂質が重要視される一方、糖質の役割やその代謝過程に関しては不明な点が多い。本研究では、細胞内貯蔵糖質であるグリコーゲンに着目し、魚類の卵形成や発生過程におけるグリコーゲンの代謝とその役割を明らかにすることを試みた。 サクラマスでは、孵化前にグリコーゲン分解酵素の遺伝子が発現しており、この時期にグリコーゲンの分解が促進されていることが示唆された。 次に、ゼブラフィッシュ卵形成過程におけるグリコーゲン量やその合成・分解に関与する酵素の活性を調べた。その結果、卵形成の比較的後期において、急激にグリコーゲンの蓄積が起き、この時にグリコーゲン合成酵素の活性が増加することも分かった。一方、グリコーゲン分解酵素の活性は排卵が起こる直前に活性がなくなることも分かった。この生理的意義は不明であるが、排卵後の卵が最も多くグリコーゲンを有していることと関連があるかもしれない。次に発生過程でのグリコーゲン合成と分解の活性を検討したところ、グリコーゲン合成酵素の活性が、受精後急激に上昇することが明らかとなった。一方、グリコーゲン分解酵素の活性は、発生とともに増加し続けた。このことから、発生のごく初期では、合成と分解が同時に起こっており、そのため見かけ上のグリコーゲン量が一定に保たれる時期が存在することが分かった。 本年度はCRISPR/Cas9を用い、グリコーゲン合成酵素をコードする遺伝子のノックアウト個体の作出も試みた。現在、ノックアウトキメラ個体を複数飼育しているが、今後完全なノックアウト個体を作ったのち、グリコーゲン欠損個体の卵形成や発生を観察する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、主に基礎的なデータの収集が目標であった。ほぼすべての実験において、次年度以降の基礎となるデータの収集に成功しており、これらの結果をもとに今後の実験を組み立てていくことができると確信している。今年度、様々な条件等の結果、ゼブラフィッシュの卵形成や胚発生の過程におけるグリコーゲン合成酵素および分解酵素の活性が測定できるようになり、今後、グリコーゲン合成に影響を与える様々な飼育条件の評価を行う際に利用できる。
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Strategy for Future Research Activity |
卵や胚におけるグリコーゲン合成におよぼす各種環境ストレスの影響を調べるため、ゼブラフィッシュ卵母細胞の培養系、および発生過程の胚を用い、低酸素、インスリン暴露、低温などで処理した後、グリコーゲン合成酵素および分解酵素の活性を調べる。これらの結果より、グリコーゲンの合成に正の影響を与える条件を割り出し、特に雌の成魚に対して卵のグリコーゲンを増加させるような条件を調べたい。これらの結果を通して、「グリコーゲンリッチ」な卵が作成可能かを検討する。 また、グリコーゲン合成酵素をノックアウトしたゼブラフィッシュを育て、これが生む卵を用いてグリコーゲン欠損が及ぼす卵形成や発生への影響を検討する。グリコーゲン欠損胚の器官形成や生残率などに影響がみられる場合、グリコーゲンやグルコース6リン酸(グリコーゲンやグルコースの材料)のマイクロインジェクションにより、これがレスキュー可能か否かを調べる。これらの実験から、発生過程におけるグリコーゲンの生理的役割の理解を目指す。
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