2019 Fiscal Year Research-status Report
魚類の胚によるグリコーゲン利用機構の解明と環境ストレス耐性卵の作製
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18K14524
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
古川 史也 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (80750281)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | グリコーゲン / ゼブラフィッシュ / 胚 / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までの研究により、ゼブラフィッシュおよびヤマメの胚において、グリコーゲン合成酵素および分解酵素の遺伝子が発現していることから、胚においてグリコーゲン代謝が活発に行われていることが示唆された。また、これらの酵素の活性を測定することも可能となった。今年度は、「グリコーゲン代謝が外部の環境変化の影響を受けるか否か」に着目した。具体的には、ゼブラフィッシュ胚を用いていくつかの条件下におけるグリコーゲン代謝の変化を測定した。まず、低酸素条件下においては、グリコーゲン合成酵素の活性は変化しないものの、グリコーゲン分解酵素の活性が顕著に減少することが明らかになった。以前、低酸素下で発生が遅延したゼブラフィッシュ胚においてグリコーゲンの消費が停滞する現象を確認したが、これはグリコーゲン分解酵素の活性低下に起因するのかもしれない。次に、インスリンシグナル阻害剤(LY294002)が及ぼす影響を検討したが、グリコーゲン合成酵素と分解酵素のいずれの活性も変化しなかった。 次に、低酸素が及ぼす代謝中間物量への影響を調べた。いくつかの発生ステージの胚を用いて1時間の低酸素暴露を行ったところ、乳酸やアラニンなどが低酸素環境下で増加する傾向が見られた。「低酸素による影響」と「胚による低酸素への応答」を比較するため、通常酸素分圧下で好気呼吸の阻害剤に暴露する実験も行った。その結果、多くの代謝中間物が低酸素暴露時と同様の変化を示したものの、一部で異なる応答も見られた。この結果から、低酸素誘導因子(HIF)などが介する代謝系の低酸素への応答機構が存在する可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、上記の実験に加え、CRISPR/Cas9によるグリコーゲン合成酵素のノックアウトゼブラフィッシュ胚の機能解析に着手する予定であったが、変異体が全滅してしまった。現在、再度ノックアウト個体を作出するところからやり直している。その他、抗体を用いた免疫組織化学も行ったが、2種類存在するグリコーゲン合成酵素遺伝子のうち、一方をターゲットにした抗体が適切に標的タンパク質を標識できていないことが明らかとなった。したがって、現在新たな抗体を作成依頼中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果から、低酸素に応答してグリコーゲン分解が調節されていることが明らかとなった。今後、この低酸素への応答がどのようなメカニズムを介して発生しているのかを検討することは興味深い。まずは、上記HIFをターゲットとした解析を考えている。 また、今年度は胚を用いてグリコーゲン代謝の変化を測定したが、今後は卵母細胞を用いた解析も予定している。雌から取り出した卵母細胞を用い、培養条件下で様々な環境変化に暴露し、酵素活性や代謝中間物への影響を検討したい。 今年度は実施できなかったが、グリコーゲン合成酵素をノックアウトしたゼブラフィッシュを作成し、グリコーゲンのない卵や胚が卵成長/卵成熟や胚発生の過程でどのような影響を受けるかを解析する予定である。さらに、グリコーゲン合成酵素や分解酵素の局在を卵母細胞や胚において明らかにすることも検討している。
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