2018 Fiscal Year Research-status Report
農地の放射性物質対策が流域の水質に及ぼす影響の解明
Project/Area Number |
18K14561
|
Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
錦織 達啓 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, 研究員 (10636137)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 地下水質 / 河川水質 / 水田排水 / 放射性Cs対策 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第一原発事故に伴う農作物の放射性セシウム汚染対策として、カリウム増肥が実施されている。資材は主に塩化カリウム(KCl)が使用されているが、Clイオンは水と共に流れ去りやすいため、周辺水系のClイオンが増加する可能性がある。本研究では、福島県の対策実施地域の地下水(約70地点)、対策実施流域と対策終了流域(計6流域)の河川水と水田排水を採取し、主要イオン濃度を測定して、カリウム増肥の水質への影響を把握することを目的とする。 2017年~2018年の地下水のClイオン濃度は山林域では大部分が2~6 ppmの範囲だったが、農地域や宅地域はより高濃度で、4~34 ppmであった。Clイオンが高濃度の地点は、硝酸イオンも山林域の数倍~数十倍含まれていたことから、肥料または下水の影響を受けているとみられる。しかし、そのような地点の多くは、Clイオン濃度が原発事故前または事故2~3年後(2013~2014年)の調査値(島野・薮崎 2013、薮崎・島野 2015)から増加していないため、現況ではカリウム増肥の影響は受けていないと考えられる。ただし、いくつかの地点では濃度が数倍に増加していた。これらの地点は農地と宅地が混在しているため、カリウム増肥・下水のどちらが原因か今後明らかにする必要がある。Kイオン濃度は山林域と農地域は同程度(3 ppm以下)であり、明確な影響は見られない。 河川水と水田排水は2019年から採取を開始したため、まだClイオンの簡易分析結果のみだが、河川水も地下水と同様に、上流の山林域より下流の農地域や宅地域で数倍高い濃度であった。さらに水田排水は河川水より数倍高い値を示す箇所が多かったことから、下流でのClイオン増加に水田排水が関連している可能性がある。ただし、対策終了流域も同じ傾向を示したため、作付期における傾向を見た上で、カリウム増肥の影響か見極める必要がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はおおむね順調に進展している。理由は以下のとおりである。 河川水と水田排水の採取に遅れが出たものの、地下水の調査は順調に進んでおり、カリウム増肥による影響の有無の概況について確認できつつある。また、所属機関の変更に伴い、当初予定になかった水田におけるClイオンの流出入を調査できたため、今後、本研究結果と併せてより深い考察が期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2年目は、主要イオンについて、地下水の経年変化、河川水と水田排水の経月変化を追うと共に、Clイオンが高濃度の地点の地下水及び河川水を対象に、下水の指標物質である人工甘味料・PPCPs(医薬品及びパーソナルケア製品)の濃度を測定し、Clイオンがカリウム増肥・下水のどちらに由来するか明らかにする。また、カリウム増肥による水系への影響の出やすさは、採水地点の上流域の土地利用状況に依存すると予想されるため、単純にClイオンの濃度を比較するだけでなく、GISで算出した上流域の農地面積率などで濃度を標準化・比較し、解析を進める予定である。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額454,725円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度の研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。
|