2019 Fiscal Year Research-status Report
Study of the network among the intestine, brain and reproductive organs focused on the intestinal environment in hens.
Project/Area Number |
18K14569
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
新居 隆浩 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 助教 (90804873)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ニワトリ / 腸内環境 / 炎症 / 卵巣機能 / 産卵機能 / 内分泌制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、産卵鶏の腸内環境と産卵機能との関連を調べることを目的として、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の経口投与による腸炎誘導モデルを用いた試験を行っている。今期は長期的な腸内環境の悪化による影響を調べるために、産卵鶏に低濃度のDSS (0, 225 mg/ kg BW) を28日間投与して、軽度の腸炎を長期間誘導した。 その結果、DSS長期投与によって、盲腸では腸内細菌の多様性が減少し、細菌叢のクラスターは対象区と比べて変化した。下部消化管粘膜では軽微な炎症反応が認められ、DSS投与によって腸内環境が悪化したといえる。また、DSS投与1週間後から試験開始前と比べて卵黄重量が約15%低下した。急性腸炎では肝障害によって卵黄前駆物質の合成機能が低下することが分かっているため、今回の卵黄重量低下の原因として、肝臓の卵黄前駆物質の合成機能の低下を疑った。しかし、主な卵黄前駆物質であるVLDLの血中濃度はDSS区で減少しておらず、逆に対照区よりも高い値を示した。このことから卵胞におけるVLDLの取り込み機能が低下している可能性が考えられた。しかし、卵胞顆粒層におけるVLDL取り込み関連因子の遺伝子発現パターンは、取り込み促進状態にあり、卵黄前駆物質の取り込み低下につながる結果は得られなかった。卵黄前駆物質の受容体をはじめ、タンパクレベルでの取り込み機能異常がある可能性が残されるが、これについては今後の追究が必要である。また、卵胞発達の中枢である下垂体前葉の遺伝子発現を解析すると、FSHとIL-1βの遺伝子発現がDSS区で有意に高値を示した。FSHの発現増加は卵胞における前駆物質の取り込みを促進していると考えられる。下垂体におけるIL-1βの発現増加はストレス内分泌反応を促進することが知られているため、これが今回の産卵機能低下と関与している可能性も考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成31年度にはニワトリにおける長期的な腸内環境の悪化による産卵機能低下メカニズムの原因を追究した。軽度で長期間の腸炎下では、急性で重度の腸炎のように突然産卵が停止するのではなく、産卵は継続するものの卵黄重量が低下し、結果として卵質が低下する可能性が示された。その原因として、急性腸炎と同様に、軽度の腸炎下でも肝臓の卵黄前駆物質合成機能が低下すると仮説を立てたが、予想に反して血中の卵黄前駆物質濃度はDSS区で有意に増加していた。このことは、肝臓における卵黄前駆物質の合成機能に異常が生じたのではなく、これを取り込む卵胞側の機能に異常が生じていたことを示唆している。しかし、遺伝子レベルでは卵胞側の異常を見つけることはできず、原因の究明にはタンパクレベルでの解析や、RNAseqを用いた網羅的な解析が必要になると思われる。また、卵胞発育を調節する下垂体前葉では、卵胞の成長を促すFSHの遺伝子発現量がDSS区で高値を示していた。その一方で、下垂体ではストレス反応を活性化する炎症性サイトカインのIL-1βの発現が高くなっており、このような反応も、卵胞発育が低下する原因の一つである可能性が推察される。いずれにしても、軽度の腸内環境の悪化は卵黄重量の低下を促すことが示された。これには急性炎症下とは異なり、肝臓の機能障害ではなく、腸から卵巣への直接的な影響、あるいは性ステロイド産生をコントロールする中枢への作用を介した影響が原因であると示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、腸内環境が産卵機能に影響する可能性は十分に示されてきたものの、その作用経路として腸-脳-生殖巣という3者の経路だけではなく、急性腸炎では腸-肝臓-生殖巣が、軽度の腸炎下では腸-生殖巣といった作用経路が強く関与している可能性が高いことが明らかになった。一方で、腸内環境を崩したときの中枢における反応として、炎症性サイトカインの増加が認められている。ストレス条件下では、中枢における炎症性サイトカインの発現が高まることが知られているため、こうした脳での反応が産卵機能に関与していく可能性は期待できる。最終年度である本年は、卵胞における卵黄前駆物質の取り込み機能を遺伝子およびタンパクレベルで解析し、その機能低下を引き起こす要因について追及する。特に、その要因について、炎症下の腸管で増減する遺伝子や、脳が関与しているストレス反応経路に注目し、多角的に分析することで、その全体像を捉える。
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Causes of Carryover |
昨年度は腸管の内容物において、炎症の有無で腸内細菌叢が変化するか解析したところ、多様性の低下など多少の変化はあったものの、大きな違いは見受けられなかった。したがって、当初予定していたメタボローム解析は実施しなかった。一方で、脳内や卵胞膜の機能に、炎症下で一定の反応がみられたことから、これらの変化をもたらした要因を追究する必要がある。そこで、本年度は昨年度に使用しなかった経費をRNAseq等のメタ解析にあてて、脳や卵胞膜の遺伝子発現解析を行う予定である。
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Research Products
(4 results)