2018 Fiscal Year Research-status Report
神経細胞を用いたトキソプラズマのステージ転換を制御する分子機構の解明
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18K14577
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
猪原 史成 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 特任研究員 (00800773)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トキソプラズマ / 慢性感染 / ステージ転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
トキソプラズマ原虫は、人を含めたほぼ全ての哺乳類に感染する人獣共通の病原体である。世界人口の約3割が感染しているとされ、妊婦が初感染すると流産や胎児の脳症等を引き起こす。本原虫にひとたび感染すると、宿主の脳や筋肉内で増殖型虫体から潜伏型虫体へとステージ転換し嚢胞を形成する。分厚い膜に守られた潜伏型虫体に有効な治療薬は存在せず、潜伏型虫体を完全に排除することはできない。さらに、患者が免疫抑制状態にある場合には、再活性化して死に至らしめる。我々は、潜伏型虫体へのステージ転換が神経細胞や筋細胞などの一部の細胞種で高頻度に生じることに着目し、神経細胞に感染した際に発現量の増加する原虫遺伝子群を他の細胞種と比較して特定した。本研究では、これら遺伝子の機能解析を通じて、治療の困難な慢性感染が起きる仕組みの解明を目指す。 今年度は以下の4つの項目について研究を行なった。1)スクリーニングの結果選抜された6つの原虫遺伝子のノックアウト型原虫の作製。2)ステージ転換能を評価するin vitro実験系の構築。3)上記の2つを組み合わせ、原虫因子の欠損によるステージ転換能への影響の評価。4)親株とノックアウト型原虫株間でのマウスにおける病原性試験。 これまでに、4つの遺伝子についてノックアウト型原虫の作製に成功した。また、間接蛍光抗体法を用いて、神経細胞に感染させた原虫のステージ転換効率の評価法を確立した。次に、それらを用いて遺伝子欠損によるステージ転換効率への影響の有無を解析したが、いずれの株においてもステージ転換能に変化はみられなかった。最後に、マウスにおける病原性を比較したところ、4つの内1つのノックアウト型原虫株で致死率が高くなっていることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ノックアウト型原虫の作出、表現型解析系の確立に成功し、当初の予定通りノックアウト型原虫の表現型の解析にも着手することができたため。おおむね順調に進展していると考える。ステージ転換能の解析結果から、今回着目した原虫遺伝子は少なくともステージ転換の必須遺伝子でないことが示された。その一方で、1つのノックアウト型原虫株で病原性が非常に増加していることが明らかとなった。このことから、本遺伝子は宿主の生存に必要な分子であることが考えられる。この遺伝子は、トキソプラズマのゲノムデータベース上で予測されたhypothetical proteinであり、その性質については全く知られていない。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、病原性に違いを認めた原虫株の機能解析を進める。すなわち、遺伝子ノックアウトによる原虫増殖等の一般性状への影響を調べるととともに、本遺伝子の特異抗体を作製し、局在を明らかとする。さらに、感染マウスにおける病態を病理学的および分子生物学的に解析することで、病原性の違いを引き起こしたメカニズムを明らかとする。
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