2018 Fiscal Year Research-status Report
イヌとヒトの比較オミクスを活用したヒト脱分化脂肪細胞の生理活性物質による神経分化
Project/Area Number |
18K14594
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
中野 令 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (60755619)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脱分化脂肪細胞 / 神経リプログラミング / 生理活性物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
中枢神経組織の障害は、永久的な運動・感覚機能障害を引き起こし、重篤な場合は死に至る。近年、幹細胞移植による中枢神経の機能再生が試みられているが、有効な治療法は確立されていない。本研究で、申請者は脱分化脂肪細胞に注目した。脂肪から得られ、生体外での増殖能を持つため、再生医療の細胞源として期待されている。しかしながら、脱分化脂肪細胞の神経リプログラミングはヒトやマウスでも報告されていない。申請者は、イヌの骨髄間質細胞の神経分化について塩基性線維芽細胞成長因子が重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた(Nakano et al., PLOS ONE, 2015, Nakano et al., J.V.M.S., 2015, Nakano et al., A.J.V.R., 2013)。さらに、イヌの脱分化脂肪細胞では、bFGFを基本とした分化方法にレチノイン酸を添加することで、神経分化が起こることを見出した。本研究では、ヒト脱分化脂肪細胞の神経リプログラミングの達成を目的として研究を行った。 まず、ヒト脱分化脂肪細胞に、イヌ脱分化脂肪細胞と同様に塩基性線維芽細胞成長因子およびレチノイン酸による処理を行った。しかし、イヌと同様のリプログラミングシステムでは、ヒトの場合は、神経細胞へのリプログラミングを確認できなかった。そこで、ヒト脱分化脂肪細胞の神経リプログラミングに関わる因子をスクリーニングし、低分子化合物を含んだ神経リプログラミング培地を開発した。リプログラミング培地で処理した細胞は、時間依存的に神経細胞マーカーの発現が上昇しすることを見出した。 以上のように、ヒト脱分化脂肪細胞の神経リプログラミングを可能とするシステムの開発に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の所属の変更に伴い、新しい環境での実験系構築および所属機関における倫理申請を行う必要があったため、時間を要した。その後の化合物のスクリーニング効率以降は効率的に研究を進めることが可能であったため、最終的には研究の進捗が順調に行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定どおりに、神経分化誘導処理に対して、ヒトとイヌの脱分化脂肪細胞で発現が異なっている遺伝子を明らかにするため、比較オミクス解析(エピゲノミクスおよびトランスクリプトミクス解析)を行う。 次いで、候補遺伝子が、ヒト脱分化脂肪細胞の神経分化に関与しているのか、という点を明らかにする。候補遺伝子からGene ontology解析を行い、エピジェネティック制御に関わる遺伝子および転写因子の遺伝子に候補を絞り込む。予備実験から、イヌ脱分化脂肪細胞の神経分化で発現の上昇がある遺伝子候補は22個に絞られている。これらの遺伝子の中から、ヒトでは変動していない遺伝子を除外し、山中先生がiPS細胞を樹立した際に行った手法に準じて、レンチウイルスベクターを使って、全ての候補遺伝子をヒト脱分化脂肪細胞に遺伝子導入する。神経細胞へと分化するか否かを神経マーカーの発現や機能解析を行って検討する。次いで、候補遺伝子をひとつずつ取り除き、神経分化に必須の遺伝子を明らかにする。最後に、必須遺伝子の組み合わせを遺伝子導入し、神経マーカーの発現や機能解析を行って、神経細胞へと分化するための必要十分な条件を明らかにする。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた状況:申請者の所属の変更に伴い、新しい環境での実験系構築および所属機関における倫理申請を行う必要があったため、時間を要した。 翌年度分として請求した助成金:\1,241,039 使用計画:神経リプログラミング処理に対して、ヒトとイヌの脱分化脂肪細胞で発現が異なっている遺伝子を明らかにするため、比較オミクス解析(エピゲノミクスおよびトランスクリプトミクス解析)を行う。
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