2019 Fiscal Year Research-status Report
我が国のイノシシに蔓延するヘパトゾーン属原虫の分類学的・生物学的特性の解明
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18K14596
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
常盤 俊大 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (50757755)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 寄生虫 / ジビエ / イノシシ / 野生動物 / マダニ媒介感染症 / 感染症 / 原虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
へパトゾーン属はアピコンプレクス門アデレア目に属する偏性寄生性の原虫で、食肉動物やげっ歯類、爬虫類、両生類、鳥類などを固有宿主とする。本属のうちイヌ寄生種は、しばしば宿主に病気を引き起こすことから獣医学上重要な病原体としても知られる。申請者らは、有害鳥獣の保有病原体の調査過程において、有蹄類で記載のない本属原虫を検出し、Hepatozoon apri Yamamoto & Tokiwa et al., 2018と命名した。2019年度は、以下の研究実績が得られた。 1)イノシシ体内での寄生様式の形態解析:狩猟および有害鳥獣として捕獲されたイノシシの筋肉、血液、心臓、肝臓、腎臓、脾臓について精査した。好中球と思われる顆粒球内に認められたガモント(ガメトサイト)は楕円形で大きさ約11.6×6.7μm、細胞質は無色、類円形の核が偏在し、雌雄の鑑別は困難であった。メロントは骨格筋組織内に観察され、寄生虫体胞様の内部に存在し、辺縁は不明瞭で、類円形から楕円形(直径約30~38μm)、泡沫状の細胞質を備えていた。イノシシの筋肉に寄生するSarcocystis miescherianaのサルコシストと比較したところ、肉眼的に類似していたものの組織標本上では容易に鑑別ができた。 2)終宿主の検索:タイのイノシシに付着していたカクマダニ属よりH. apriの近縁種(系統)が得られていることからマダニ類を終宿主と推定した。日本国内で捕獲されたイノシシ6頭よりマダニ類1,027個体を回収し、形態学観察により種・発育段階を同定後した。得られた虫体のうち成虫93個体について生理食塩水中で解剖し、実態顕微鏡下で血体腔内を精査したところ、オオトゲチマダニよりオーシスト様構造物を検出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
複数の調査対象地域のイノシシにおいて豚熱(豚コレラ)の流行が認められており、捕獲頭数の減少や流通が中断あるいは減数している状況であり、イノシシ検体の確保が十分でない状況がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては、以下の3点を中心に推進する。 1)ベクター(終宿主)となるマダニ類の特定および2)国内各地のイノシシにおける感染状況の解明 前者については、イノシシの感染率が高い地域を中心に、その体表に付着するマダニを回収し、血体腔内のオーシストの検出を試みるほか、マダニ類人工吸血システムの構築と、ガモント陽性イノシシ血液を用いたマダニ類への実験感染およびそれらの体内における発育過程について検討する。後者については有害捕獲されるイノシシおよび市場に流通するイノシシ肉を検体として、各種メロントの肉眼的検出法の検討と、国内のイノシシにおける感染状況を調査を継続する。 3)ミトコンドリアゲノム解析による系統解析 他の脊椎動物種より検出されるHepatozoonおよび近縁な属(Hemolivia, Bartazoon, Karyolysus)の系統関係について明らかにする目的で、ミトコロンドリアゲノムの解析を進める。
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Causes of Carryover |
豚熱流行により、予定していたイノシシ調査費用および検体の購入・配送費用に未使用が生じたため。2020年度に他の地域での調査や、検体を購入するための費用として使用する予定である。
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