2019 Fiscal Year Research-status Report
体細胞変異に焦点をあてたGATOR1機能障害によるてんかん発症機序の解明
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18K14608
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
石田 紗恵子 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (50777927)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | てんかん / 体細胞変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経疾患は複雑な遺伝的構造を示す。これまで多くの生殖細胞変異が神経疾患のリスクとして報告されている。しかし、これらの生殖細胞変異のみでは、てんかん発作の多様性を十分に説明できない。先天的な遺伝子変異である生殖細胞変異に対して体細胞変異は後天的な変異である。発達段階において神経前駆細胞は、分裂を繰り返して神経細胞に分化する。この間に生じるDNA損傷が正確に修復されなかった場合、体細胞変異が引き起こされる。近年、この体細胞変異がさまざまな神経疾患患者の脳から同定されており、神経疾患発症に与える影響について関心が高まっている。 成人てんかんの約60%を占める焦点性てんかんは、特定の脳部位に限局して異常放電を発生し、その脳部位が司る機能に依存して、様々な症状を示す。GATOR1複合体の生殖細胞変異は、焦点性てんかん患者に最も認められる変異である。しかし、患者は同じ遺伝子変異を有する家系内であっても、多様な症状を示す。このことは、生殖細胞変異以外の病因が存在していることを示唆している。我々は、これまでに患者脳においてGATOR1複合体の体細胞変異の発生を明らかにした。このことから、生殖細胞変異に加えて体細胞変異が発生する「2-hit」が、てんかん発症に影響を与え、体細胞変異の発生箇所に依存して多様な症状が現れるとの仮説を立てた。本研究は、GATOR1複合体の「2-hit」モデルマウスを作製することで、本仮説を検証し、てんかん発症メカニズムを明らかにすることを目的としている。 本年度は、作製した「2-hit」モデルマウスに患者と同様の表現型が認められるかを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GATOR1複合体に生殖細胞変異および体細胞変異を有する患者から、てんかん発作とともに、神経異常興奮を示す異型巨大錐体細胞の出現や大脳層構造の乱れを特徴とする限局性皮質形成異常(FCD)が報告されていることから、今年度は、このようなFCD病変を、体細胞変異が引き起こすかを調べた。初めに、GATOR1複合体を形成するDepdc5に注目し、Depdc5 lox/-マウスにCre-EGFP をin utero electroporation (IUE)で発現させた後、脳を固定し、GFP+細胞の大きさを、Depdc5 lox/+にCre-EGFP を発現させたマウスと比較することで評価した。また、大脳層構造を、層特異的マーカーで評価した。結果、Cre導入マウスにおいて明らかなFCD様の特徴は認められなかった。そこで、Cre導入効率を上げる目的で、Depdc5 lox/-マウスに、FLEX-TdTotato配列を導入し、IUEでCreのみを発現させた「2-hit」モデルマウスを新たに作製した。しかし、現在までにFCD様病変は認められず、24hr video recordingを行ったが、てんかん発作は認められていない。その一方で、我々は大脳皮質全体においてGATOR1複合体を構成する遺伝子(Depdc5,Nprl2,Nprl3)を欠損させたマウスを作製し、FCD病変とてんかん発作を示すことを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験から、「2-hit」モデルマウスにおける明らかな病変・発作は認められていない。その一方で、我々は大脳皮質全体において、GATOR1複合体を構成する遺伝子(Depdc5,Nprl2,Nprl3)を欠損させたマウスではそれぞれFCD病変とてんかん発作を示すことを明らかにした。この結果は、生殖細胞変異に加え、体細胞変異が発生することで、神経細胞の形態、活動にてんかんに繋がる異常が生じることを示している。そこで今後は、このマウスを用いて、GATOR1複合体の機能障害によるmTORC1活性化が、下流の遺伝子発現動態にどのような影響を与えるかを網羅的遺伝子発現解析により明らかにする。
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