2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K14662
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
片山 耕大 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00799182)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | X線結晶構造解析 / 色覚視物質 / 波長制御 / レチナール / FTIR分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、X線結晶構造解析を中心とした構造解析により、色覚視物質の原子座標を決定し、ヒトが色を識別する分子機構をより詳細に理解することに取り組んだ。具体的には、霊長類青視物質について、アナログレチナールにより視物質を再構成させ、蒸気拡散法を改良することで、短時間での結晶取得を目指した。さらに、UV-visおよびFTIR分光測定による光反応中間体の構造解析にも取り組んだ。結晶構造解析について、現状結晶を得るには至っていないが、結晶化プレート上で良好な結晶化母液との相分離が確認され、さらなるスクリーニングの余地を示唆した。また、当初アナログレチナールにより再構成された青視物質アナログは、光耐性を示したが、詳細な分光解析により、非常に遅い時間スケールで退色していくことが分かり、結晶化条件の再検討も示唆した。なお、3種 (青・緑・赤) 色覚視物質のうち、青視物質のみがアナログレチナールによる再構成が可能であったが、アナログレチナールの結合能を決めるアミノ酸を特定し、緑視物質変異体に対するアナログレチナールの結合を確認することに成功した。この研究成果はJ. Biol. Chem.誌に第一著者として発表した。 本研究課題は青視物質を対象とした構造解析であるが、これまで申請者が研究を行ってきた緑・赤視物質について、塩化物イオン結合による波長シフトの分子機構の理解に向けたFTIR解析を進める中で、レチナールから離れた位置に存在するアミノ酸の変異によって熱安定性が劇的に向上する変異体を発見した。現在この研究成果はBiochemistry誌に投稿中である。これら色覚視物質の波長制御の理解に向けた構造解析の研究成果について7件の招待講演を国際会議を含む様々な会議で行い、1件の一般口頭発表を国内会議において行った。また平成30年度名古屋工業大学若手研究イノベータ養成センター表彰を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、①X線結晶構造解析を中心とした構造解析により、色覚視物質の原子座標を決定すること、さらに②赤外分光法を用いた振動分光解析を発展させ、光反応過程における中間体の構造解析を行い、ヒトが色を識別する分子機構をより詳細に理解することに取り組んだ。①について、光・熱異性化をブロックしたアナログレチナールにより再構成した青視物質アナログに対し、蒸気拡散法と硫酸アンモニウム沈殿法を組み合わせることで、短時間での結晶取得を試みている。結晶を得るには至っていないが、結晶化プレート上で良好な結晶化母液との相分離が確認されており、さらなるスクリーニングを進めている。一方、当初青視物質アナログは光耐性も示したことから、明るい条件下での結晶化に取り組んだが、その後の詳細な分光解析により、非常に遅い時間スケールで光退色していくことが分かったため、今後暗赤色灯下での結晶化を試みる。 ②について、UV-visおよびFTIR分光測定による光反応中間体の構造解析を進展させている。これまでロドプシンを含めた視物質は77 Kで生成するBatho中間体のみフォトクロミズムを示し、後続する中間体はフォトクロミズムを示さないと考えられてきた。しかし今回、UV-vis分光測定により、青視物質に対するBatho中間体以降の全ての中間体の同定に成功し、活性中間体Meta-IIを除く、BL, Lumi, Meta-I中間体はフォトクロミズムを示すことを明らかにした。今後FTIR分光測定により、構造変化の詳細について議論していく。 以上のとおり、アナログレチナールを駆使することで、光および熱異性化の問題を最大限軽減させた条件下で、結晶化に向けて進行している。さらに青視物質の光反応過程で生成する全ての中間体の同定に成功し、構造ダイナミクスを明らかにするためのFTIR分光測定に向けて準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
青視物質アナログの分光解析を進めていく過程で、非常に遅い時間スケールで光退色することが分かった。これは同様にしてアナログレチナールの結合能を有するロドプシンアナログ (レチナールシッフ塩基の加水分解反応は起こらず、光反応サイクルを示す) とは異なる光反応性を示している。従って、今後光退色による結晶試料中での不均一性を阻害するために、暗赤色灯下にて結晶化を行う予定である。また緑・赤視物質について、蛋白質内部への塩化物イオン結合に伴う長波長シフトのメカニズムの解明に向けた研究過程で、ロドプシンの結晶構造を基にして、レチナールから10 Å以上離れた位置に存在するアミノ酸の点変異によって、熱安定性が向上することを発見した。さらに、この変異体は昆虫細胞Sf9による発現量も野生型と比較して3~5倍高いことを確認した。本研究課題は青視物質を対象とした構造決定を目指しているが、研究の最終目標として、“色覚視物質の原子座標を決定し、ヒトが色を識別する分子機構を理解すること”を掲げている。従って、今後緑視物質変異体も並行して結晶化させていく予定である。 青視物質のFTIR分光測定も継続して行う。UV-vis分光測定によって同定することに成功した光反応過程で生成する全ての中間体の構造解析を実行する。興味深いことに、レチナールの光異性化直後に生成する初期中間体Bathoを除き、熱緩和に伴い生成する後続の中間体はフォトクロミズムを示さないことが視物質分野の常識であった。しかし今回、青視物質は活性中間体Meta-IIの前駆体、Meta-I中間体までフォトクロミズムを示すことを明らかにした。この結果は、青視物質特異的な光情報伝達機構、且つ構造ダイナミクスの存在を示唆している。従って、確立した各中間体が蓄積する温度条件下において、高精度低温FTIR分光測定を駆使することで、構造情報を得ることを目指す。
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Research Products
(10 results)