2018 Fiscal Year Research-status Report
Extracellular ATP signaling and perception in plant
Project/Area Number |
18K14726
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
蔭西 知子 北見工業大学, 工学部, 研究員 (20815633)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 細胞外ATP / キナーゼ様受容体 / 植物の屈性制御 / エンドサイトーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
アデノシン三リン酸(ATP)はエネルギー物質としてだけでなく、神経伝達物質としての機能が知られる。一方、植物の細胞外ATP受容体は哺乳類に比べ20年程遅れて報告された。植物の細胞外ATP受容体は哺乳類とは異なり、膜に存在するキナーゼ様受容体の一つであること、エンドサイトーシスによって膜に局在するということがわかっているが、植物での細胞外ATPの働きとシグナリング経路および受容体の作用機序について謎が多い。そこで申請者はネイティブな細胞内ATPのシグナリング経路と植物の細胞外ATP受容体DORN1の局在を観察することを計画した。平成30年度の研究では、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、ゼニゴケを材料にしたパラフィン切片、凍結切片といったサンプルへの免疫染色の技術を取得し、細胞内の低分子シグナリング物質の局在の観察に成功した。 さらに、細胞外ATPは根の身長方向の決定に関わることが予想されており、それには物理刺激によって根の細胞外に放出される細胞外ATPによる活性酸素種の生成が関わることが想像されている。細胞外ATPが植物の根の内皮で植物の成長、重力屈性などに関わることが知られるエンドサイトーシスのスピードを撹乱することを明らかにしていることから申請者はエンドサイトーシスが細胞外ATPの作用機序に直接影響があることが予想した。そこでエンドサイトーシスと植物の成長についてさらに研究するために試薬の溶媒であるエタノールといった低分子物質によるエンドサイトーシスへの影響をまず調べた。その結果、エタノールが根の細胞骨格やエンドサイトーシスを撹乱すること、無酸素状態で植物の根がエタノールを生産することを明らかにした。以上の結果より、今後のエンドサイトーシスの研究で試薬の溶媒であるエタノールの濃度と研究に使用する植物の酸素状態に注意すべきであるという知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植物の細胞外ATP受容体の働きを解明するにあたり、着目していたエンドサイトーシスや細胞外ATP受容体であるDORN1のライブイメージングを行うために、共焦点レーザー顕微鏡の使用を予定していた。しかし、平成30年度中に申請者が所属を異動したことによって、共焦点レーザー顕微鏡をいつでも使用できる環境ではなくなった。そこで申請者は細胞内外のATPとその受容体であるDORN1の動きを追うために共焦点レーザー顕微鏡に頼らない新しい手法を探索した。そこで現在着目しているのが(1)免疫染色でDORN1を染色すること、(2)細胞内外のATPセンサーとして哺乳類で知られる蛍光タンパク質遺伝子をシロイヌナズナなど植物に組み込んで、細胞レベルでのATP分泌の動き蛍光顕微鏡やデジタルカメラを用いて捉えることである。すでに免疫染色のための抗DORN1抗体を作成中であり、植物の根でのDORN1の局在を観察予定である。また、平成30年度は試薬の溶媒であるエタノールといった低分子物質がエンドサイトーシスのスピードに影響することを明らかにし、今後、細胞外ATPシグナリングとエンドサイトーシス、植物の成長について研究を行う手法は整いつつあり、申請者は本研究がおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
植物の細胞外ATPの放出経路解明のため細胞内外ATPをラベルする方法の探索と、細胞外ATP受容体DORN1の機能解明のためにまずその局在の観察を行う。研究では、まず(1)ルシフェリン、ルシフェラーゼ反応といった化学発光法を利用し、植物のどの組織から細胞外ATPが活発に放出されるかを探索し、(2)ATPに結合することが知られる蛍光色素キナクリンでATPをラベルする。次に(3)細胞内外のATPセンサーとして哺乳類で知られる蛍光タンパク質遺伝子をシロイヌナズナなど植物に組み込んで、細胞レベルでのATP分泌の動きを捉える。その後、膜輸送に関わる阻害剤を使用して、ATP小胞の分泌経路の解明を計画している。この結果により、植物の細胞外ATPの働きに新しい知見を与える予定である。 また、植物の細胞外ATP受容体DORN1タンパク質に存在する植物レクチンキナーゼ様受容体による、細胞壁-細胞膜の接着制御の仕組みの謎に迫る。植物の素早い屈性や伸長には細胞・組織の柔軟性の調節が必要である。申請者はこれまでにATPが根の重力屈性を制御することを見出したことから(未発表)、ATP 受容後のDORN1による、細胞壁-細胞膜間の接着制御に着目している。研究では、ネイティブな植物の細胞外ATP受容体DORN1の局在を観察するために、DORN1の抗体を作成中であり、植物の凍結切片に対して免疫染色を行う予定である。 以上の研究によって、植物の細胞外ATPの放出経路と、DORN1ダイナミクスによる細胞壁-膜接着 様式の制御が屈性応答にどう関わるのかまで明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
申請者の所属の異動により、研究に主に使用を予定していた共焦点レーザー顕微鏡を使用できなくなった。そこで共焦点レーザー顕微鏡で使用するために購入を予定していた試薬や、手法を慎重に再検討する必要が出た。現在は、共焦点レーザー顕微鏡の使用を主としない研究手法を検討している。現在申請者は組織切片の免疫染色や透過型電子顕微鏡、HPLC-MS、GC-MS、ESRなど申請者がこれまでに使用したことのない機器が利用できる環境に異動となったため、今後はそれら機器を利用して研究を遂行する計画である。また、所属外の機関に共焦点レーザー顕微鏡の共同利用の申し込みを考えており、そのための旅費や使用料といった経費に次年度使用額を使用させていただく計画である。 また、申請者が平成30年度の秋に妊娠したことにより、体調を考慮して学会や研究会、国際学会への参加などを控えることとなり、計画していた旅費が大幅に次年度使用額となった。令和元年度では体調及び初めての育児への不安はあるが、平成30年度に計画していた学会、国際学会、研究会への積極的な参加を計画している。
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