2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K14738
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
金澤 建彦 基礎生物学研究所, 細胞動態研究部門, 助教 (60802783)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オルガネラ / 膜交通 / 分泌経路 / ゼニゴケ / 油体 |
Outline of Annual Research Achievements |
物質輸送機構「膜交通」により、タンパク質や脂質、多糖類は、それらが機能する単膜系オルガネラへと正確に輸送・局在化される。進化の過程において、新規にオルガネラが獲得されるに伴い、新規輸送経路の開拓があったと考えられるが、膜交通がその過程でどのように関与したのかについてはほとんど分かっていない。 本研究課題では、陸上植物の系統特異的オルガネラ獲得とその進化過程において膜交通がどのように関与したかを明らかにすることを目指し、苔類特異的なオルガネラである油体を新規獲得オルガネラのモデルとして、ゼニゴケの油体発生と膜交通の関与、植物の系統特異的オルガネラ獲得の共通モジュールの解明を目指している。 これまでの研究により、油体形成時には、転写発現を伴った一過的な輸送経路の再配向が起こること、その輸送経路の再配向がたった1つのマスター転写因子により制御されていることを明らかにしてきた。そこで本研究課題では輸送経路の再配向の分子の同定・解析を行った。 蛍光顕微鏡下での順遺伝学スクリーニングとその過程で得られた油体形成変異体を用いたRNA-Seq解析を行い、輸送経路の再配向の鍵遺伝子候補を40遺伝子に絞り込んだ。既に開発した油体形成誘導系を用いて、これら候補遺伝子の過剰発現と機能欠失変異体が油体形成に与える影響の評価を行った。また、順遺伝学スクリーニングの過程で、マスター転写因子へのインプットに関わると考えられる遺伝子候補を見出した。これらの候補遺伝子群の発現および代謝産物がマスター転写因子のオン・オフの切り替えを介して輸送経路の再配向に関与している可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
油体形成マスター転写因子の機能獲得変異体および機能欠失変異体、およびその下流に存在する別の転写因子の機能獲得変異体、機能欠失変異体、およびそれらの多重変異体を作出し、油体形成の表現型解析とRNA-Seq解析を行った。 油体形成の表現型解析から、両方の転写因子が存在する条件でのみ油体形成が起こる、すなわち輸送の再配向が起こることが見出された。また、油体が存在する異形細胞が油体細胞と呼ばれているが、これらの多重変異体の中に、油体形成が起こらずに油体細胞分化のみが起こる変異体を見出した。これらの表現型を踏まえ、RNA-Seq解析と、多群間比較解析を行い、(1)油体細胞分化に関与していると考えられる遺伝子群、(2)油体形成に関与していると考えられる遺伝子群、(3)油体内腔の代謝産物合成に関与しているの3つのクラスターに分類できることが明らかになった。(2)の条件の時に、油体への輸送方向転換が起こっていることから、このクラスターに含まれる40の遺伝子にさらに注目し、解析を行った。油体へ輸送される擬似積み荷タンパク質を発現させた植物体(レシピエント)を作出し、レシピエントにこの40個の遺伝子のそれぞれの機能欠失変異および機能獲得変異を導入し、この積み荷の誤局在化が引き起こされるかどうかの検証を行っているが、現段階で輸送経路の再配向を実行する分子の同定までたどり着いていない。 また、顕微鏡下での順遺伝学スクリーニングを並行して行い、油体形成マスター転写因子とは原因遺伝子が異なるが、油体形成が亢進する変異体が複数得られた。これまでのRNA-Seqのデータ再解析およびqRT-PCRによる転写発現解析から、この原因遺伝子が、油体形成マスター転写因子のオン・オフのインプットに関与している可能性が考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、新規オルガネラ獲得における輸送経路の再配向機構の解明であり、そのモジュールに関する知見を得ることで、陸上植物の新規オルガネラ獲得機構を明らかにすることを目指している。現段階で輸送経路の再配向を実行する分子が未同定であるため、今後はそこに注力する。 当該年度に行った油体形成に関わる転写因子群の多重変異体およびそれらを用いたRNA-Seq解析の結果、1)油体細胞分化に関与していると考えられる遺伝子群、(2)油体形成に関与していると考えられる遺伝子群、(3)油体内腔の代謝産物合成に関与すると考えられる遺伝子群の3つのクラスターに分類された。この結果は既に確立した油体誘導系を用いた解析結果からも支持され、(1)のクラスターに含まれるものは早いタイムポイント(誘導後約8時間)で転写誘導されること、(2)および(3)のクラスターは比較的遅いタイムポイント(誘導後約15時間)で誘導が起こること、これらの反応がシーケンシャルに起こることが見出された。さらに、油体誘導条件下でのタイムラプスイメージングにおいても、約15時間後から油体マーカーでラベルされる油体様構造体が形成されることからも、本研究で同定を目指す輸送経路の再配向の実行分子がこのタイミングで発現するクラスターに含まれることが示唆された。 この(2)クラスターに含まれる40遺伝子の機能変異体背景で、油体誘導を行うことで、輸送方向変換不全により油体形成異常が引き起こされると予想される。これらの遺伝子機能改変株における油体形成誘導株の作出およびその影響評価を現在進めており、今後輸送変換の実行因子を同定する。誘導系で見られたシステムが内在の油体形成を反映しているか、より詳細な検証を行い、新規オルガネラ獲得に伴う輸送変換実行因子の機能解析を通し、輸送経路の再配向に関わる遺伝子の最小セットの同定・解明を進める。
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Causes of Carryover |
当該年度では、輸送方向の再配向の実行因子を同定する計画であったが、植物栽培装置の光源の不調に起因する植物の生育不良により、実験を行うのに十分な量のサンプルを用意することができなかった。研究遂行上、十分な量の植物を用意することが不可欠なため、遺伝子組換え植物サンプル準備を、次年度に延長して実施する計画に変更した。
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] The RopGEF KARAPPO Is Essential for the Initiation of Vegetative Reproduction in Marchantia polymorpha2019
Author(s)
Hiwatashi T., Goh H., Yasui Y., Koh L.Q., Takami H., Kajikawa M., Kirita H., Kanazawa T., Minamino N., Togawa T., Sato M., Wakazaki M., Yamaguchi K., Shigenobu S., Fukaki H., Mimura T., Toyooka K., Sawa S., Yamato K.T.,Ueda T., Urano D., Kohchi T., Ishizaki K.
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Journal Title
Current Biology
Volume: 29
Pages: 3525~3531.e7
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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