2019 Fiscal Year Research-status Report
長期連合記憶におけるシナプス可塑性の電気生理学的解析とその分子メカニズムの解明
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18K14747
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 一道 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (50808095)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 記憶・学習 / 電気生理学 / ショウジョウバエ / シナプス可塑性 / カルシウムイメージング / 光遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ショウジョウバエの長期記憶形成過程において重要な役割を果たすキノコ体の出力神経細胞(Mushroom Body Output Neuron: MBON)とさらにその下流の神経細胞であるDorsal-Anterior-Lateral neuron (DALn)との間でのシナプス可塑性を電気生理学的に測定し、シナプス可塑性の細胞内における座を明らかにしようとするものである。具体的にはMBONとDALnから同時にパッチクランプ記録を行い、MBONの単一活動電位に誘導されるDALnの興奮性後シナプス電位を記憶形成前後の個体で比較、素量解析を行うことでシナプス可塑性がシナプス前・後細胞のどちらに起因するのかを明らかにする。 前年度までの研究結果から、DALnの上流にあることが過去に報告されているMBONのうち、MBON-β'2mpは活動電位の測定が困難であることが判明したので、本年度は、同様にDALnへの入力が示唆されているMBON-α3からのパッチクランプ記録を行った。その結果、MBON-α3からも活動電位が記録されなかった。 以上からMBON-DALn間のシナプスにおける素量解析は著しく困難であると考えられたため、新たにキノコ体を構成するケニオン細胞(Kenyon Cell: KC)とMBONの間のシナプスに着目した。このシナプスにおいては、キノコ体に投射するドーパミン細胞の光遺伝学による活性化と匂い刺激を同時に与えることで後シナプス細胞であるMBONの匂い応答が抑制されることが過去に示されている。ドーパミン細胞の人為的活性化は古典的条件付けにおける無条件刺激を模している。この可塑性の発現がKCの軸索末端で起きている可能性を検証するため、新たにKCの軸索領域におけるカルシウムイメージングを計画し、必要なショウジョウバエ系統の作製および光遺伝学実験に必要な条件検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
パッチクランプ法を用いた興奮性後シナプス電位の比較およびこれを用いた素量解析には前シナプス細胞からの活動電位記録が望ましいが、本研究で着目したDALnの前シナプス細胞であるMBON-β'2mpやMBON-α3からは明瞭な活動電位が記録されなかった。この原因としては1)これらの細胞が活動電位を発生させない神経細胞である、2)活動電位がその発生部位から記録電極まで伝導されない、3)電極抵抗と浮遊容量が形成するローパスフィルタによる活動電位形状の歪み等が考えられるが、いずれにしても当初の計画で想定していたMBON-DALn間でのパッチクランプ法による素量解析は著しく困難であることが明らかとなった。その結果、解析対象とするシナプス結合の変更や、カルシウムイメージングへの実験手法の変更などが必要になったため、当初の計画よりもやや遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のようにMBON-DALn間のパッチクランプ法による素量解析は困難であることが判明したため、新たにKC-MBON間のシナプスにおける可塑性に注目した。記憶形成過程におけるこのシナプスにおける可塑性は過去に示唆されており、光遺伝学によるドーパミン細胞の人為的活性化と匂い刺激を組み合わせることでMBONの匂い応答が抑制されることが電気生理学的に示されている。この研究では、前シナプス細胞であるKCの細胞体における匂い応答強度はドーパミン細胞の活性化とのペアリングによって変化しないことが示されたため、MBONの匂い応答抑制にはKCの前シナプス終末の抑制またはMBONの後シナプス抑制の可能性が考えられる。前者の可能性を検討するため、匂い刺激と光遺伝学によるドーパミン細胞の人為的活性化をペアリングすることでKCの軸索終末におけるカルシウム応答の変化を解析する。本年度までの結果で、カルシウムイメージングに用いる二光子顕微鏡下で光ファイバーを用いて効率的にチャネルロドプシンを活性化する実験系を確立しているので、これを用いて匂い刺激とドーパミン細胞の活性化をペアリングし、KC軸索末端における匂い刺激に対するカルシウム応答をペアリングの前後で比較する予定である。
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