2019 Fiscal Year Research-status Report
Investigation into mechanisms of preference decision-making occurring in the brain through analyses of gustatory second-order neurons
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18K14753
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
宮崎 隆明 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 特任研究員 (00777807)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 味覚 / 二次神経細胞 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
味覚系は、動物の生命維持に必須な摂食行動に直結し、また、視・嗅覚など他の感覚系に関連した行動を、学習を通して、変え得る。このため、実験的に「どれだけ好きか」を観察しやすく、感覚情報に対する価値判断の機構にアプローチするのに大変優れた系である。 本研究では、豊富な分子遺伝学的手法が利用可能で、単純な神経系を持ちながら様々な味刺戟に対して適切に対応できるキイロショウジョウバエ(以下、ハエ)をモデルとして用いる。ハエでは、口で感じた味情報は味覚感覚神経が脳に送っており、さらに、私は甘味に反応する味覚感覚神経に接続する二次神経細胞を15タイプ同定していたが、それらと行動決定との間の関係は明らかでない。そこで、味覚二次神経細胞が味覚行動に際してどのような役割を持つか、また、それらの細胞が味刺戟にどのように反応するか、の解析を通じて、味受容と行動決定の間の情報処理機構の解明を目指した。 既に私が同定していた味覚二次神経細胞15タイプについては、初年度(2018年度)に、これらが甘味の味覚二次神経細胞の全てをカバーすることを示唆する結果を得た。 神経細胞の役割や反応は、一部の細胞を遺伝学的に標識する系統を用いて調べる。私が味覚二次神経細胞の同定に用いた系統は、同時に他の神経細胞も標識していて行動実験に不都合だったので、他の神経細胞を標識しない系統を探索した。本年度(2019年度)までに、2タイプ(以下、A、Bとする)についてそのような系統を得た。 上記の研究で得られた結果を、私が本研究開始前までに得ていた成果と合わせて、4つの学会で発表した。その中でも特に、The 48th Naito Conference on “Integrated Sensory Sciences ― Pain, Itch, Smell and Taste”においては、優秀ポスター賞を受賞し、受賞記念口演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
味覚行動実験において二次神経細胞のみを遺伝学的に操作できるようにするとともに、その操作が可能になったものを用いて行動実験を行った。 私が15タイプの味覚二次神経細胞の同定に用いた系統は、同時に他の神経細胞も標識するため、これらの系統を用いた行動実験では観察された表現型の原因が二次神経細胞の操作によるのか否か判別できない。そこで、二次神経細胞を標識するが他の細胞は標識しない系統を得る必要がある。初年度(2018年度)に、15タイプの二次神経細胞のうちの1タイプ(A)について3系統、該当の二次神経細胞と同じ細胞を特異的に標識することを確認しており、また、別の1タイプ(B)について26系統の候補を得ていた。 本年度(2019年度)はまず、タイプ(A)の味覚二次神経細胞について、前年度までに得ていた3系統を用いて、選好行動(水と砂糖水とのうちでは砂糖水の方に集まる)と嗅覚連合学習(2種類の匂いのうち片方のみを砂糖水と同時に提示したあと、その匂いの方を他方より好むようになる)との、2通りの味覚行動実験を試みたが、神経活動を操作したときとそうしなかったときの間で行動に差は見られなかった。この結果は、このタイプ(A)の味覚二次神経細胞は実験で観察した味覚行動には関与していない可能性を示唆する。 これに加え、タイプ(B)の味覚二次神経細胞のみを特異的に標識する可能性を見出していた26系統が該当の細胞以外の細胞を標識しないか、及び、確かに該当の二次神経細胞と同じ細胞を標識しているか、を調査し、これらの2条件を満たす1系統を得た。これにより、もう1タイプの味覚二次神経細胞について、他の細胞に影響を与えずに操作し、行動実験を行うことが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、タイプ(B)の味覚二次神経細胞のみを標識する系統を用いて、その神経細胞のみを阻害したり発火させたりしたときに味覚行動がどのように変化するかを解析することで、その神経細胞が行動の制御にどんな役割を持っているかを明らかにする。神経細胞の阻害のために、この系統を用いてダイナミンの温度依存性優性機能欠失変異体(shibire)を特異的に発現させ、標的神経細胞のシナプス出力を抑制する。味覚行動としては、前年度と同様に選好行動、嗅覚連合学習を用いる。これに加え、これらの行動実験で表現型を得た場合には、光あるいは熱によって特定の神経細胞のみを発火させる手法(光/熱遺伝学)を用いて、その神経細胞の発火のみで該当する特定の行動が惹起されるかを解析する。 次に、味覚情報が二次神経細胞でどのように符号化されているかを解析するため、細胞内カルシウム濃度の蛍光インジケーター蛋白質を味覚二次神経細胞で発現させ、in vivo イメージングの手法を用いて脳内の神経活動を計測する。これにより、様々な濃度や種類の味刺戟に対して標的の神経細胞がどのように活動するかを明らかにし、以て味情報の符号化のロジックを明らかにする。標的の神経細胞は甘味情報を受け取るものであるから、与える刺戟としては糖分や、それに苦味などの別の味物質が混ざったものを用いる。
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Causes of Carryover |
第一に、1月(2020年)にインドで開催された学会に参加するための外国旅費として、当初見込みの300千円に2018年度分の外国旅費の余剰額を加えた400千円程度を見込んでいたところ、実際はこれよりも少なくて済んだためである。2020年度はCOVID-19流行のため外国で開催される学会に参加することは大変難しい、またはオンラインで参加する形になることが予想されるので、この分の余剰額は、2020年度に使用を見込んでいた外国旅費の分と併せ、オンライン会議用の機材の購入と、実験機材の購入に充てる。 第二に、光遺伝学的手法を用いて一部の神経細胞のみを特異的に活性化するための機材を購入する予定であった。しかし、光の代わりに熱を用いて特定の神経細胞のみを活性化する方法(熱遺伝学)を用いた方が良い可能性が出てきたこと、光と熱のどちらを用いるかの判断は今年度までの結果だけでなくさらなる結果を得てから行った方が効率的に資金を活用できることが判明したので、この決定・購入を次年度に行うことにした。
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