2018 Fiscal Year Research-status Report
大量SNPsデータを用いたシダの無配生殖種のゲノム構成の解析
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18K14785
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Research Institution | The Makino Memorial Foundation of Kochi Prefecture |
Principal Investigator |
堀 清鷹 公益財団法人高知県牧野記念財団, その他部局等, 研究員 (20806004)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 無配生殖種 / 雑種起源 / 核ゲノム構成 / Polypodiales |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、まずオシダ属Dryopterisの無配生殖種のうちsect. Polystichodris(いたちべに節)とD.atrata complex(イワヘゴ類)を対象にゲノム構成の解析を行った。葉緑体rbcL領域と核G6PD遺伝子の解析から、対馬でD. chinensis(三倍体無配生殖型)とD. caudipinna(二倍体有性), D. tsoongii(二倍体有性)の雑種起源の四倍体無配生殖種を見出し新種として記載した。前者にはD. tsushimense、後者にはD. subtsushimenseの名を与えた。いずれも無配生殖種側が母親となった事例であり、この雑種形成パターンはD. varia complex、Asplenium monanthes complexに続く前例の少ない報告となった。D.atrata complexについては、二倍体有性・二倍体無配・三倍体無配・四倍体有性型における複雑な関係が明らかになった。核遺伝子で識別された祖先種の系統は不稔雑種も含めれば10を超えたが、葉緑体についてはその半分程度にとどまった。多くの核遺伝子型は葉緑体系統樹と部分的な対応関係を示し、雑種形成時における強い方向性の存在を示唆した。 また、試みとしてメシダ科Athyriaceaeの無配生殖種のゲノム構成の解析にも着手した。Deparia okuboana complex(オオヒメワラビ類)のうち、D. okuboana(三倍体無配)は、D. viridifrons(二倍体有性・母)とD. unifurcata(三倍体・父)の雑種起源であることが分かり、「三倍体種と二倍体種の雑種が三倍体」というLin et al.(1992)が提唱したhybridization cycle hypothesisがPolypodiales全体に適用できることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は既存の核シングルコピー遺伝子の解析に重点を置き、無配生殖シダ植物における幅広い分類群で雑種起源の種が存在することを明らかにすることが出来た。この中で、無配生殖種の母親能力が複数例で示唆された。これまでの研究では無配生殖種が精子を提供する父親としての役割のみが信じられてきたた一方、母親能力を想定せざるを得ない事例は多いにもかかわらず、なかなか研究者コミュニティの間で受け入れられてこなかった。これに加えて、様々な倍数性が混在する無配生殖種の複合体の解析例はいくつか存在したものの、10をも超える系統が雑種形成に関与していた例は初の報告となる。雑種形成の原理については、幅広い分類群で「三倍体無配生殖種と二倍体有性生殖種の雑種が三倍体無配生殖種」という法則が示唆された。また、次世代シーケンサーを用いたMIG-seqをD. varia complexについて断片的に行い、データを無事に取得することもできた。以上より、本計画はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
オシダ属と関連する分類群、幅広く言えばPolypodialesにおける無配生殖種群について、さらに多くの雑種形成に関する知見が得られる可能性があるので、解析対象を拡大する必要がある。まずは同様にシングルコピー遺伝子を用いたゲノム構成の把握を行う。次に、非常に近縁な種同士の関係が解けなかった場合に、次世代シーケンサーを用いてSNP情報を追加取得する予定である。また、関連して、Lin et al.(1992)が提唱したhybridization cycle hypothesisをより支持する証拠として、三倍体無配生殖種における親と子孫の遺伝子型において差異がないかどうかも検討する予定である。次世代シーケンスについては、複数の手法があるが、ゲノムサイズが大きく核ゲノム領域のDNA配列をPCRすることが難しいシダ植物に対する適正な手法を慎重に検討しながら進める。
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Causes of Carryover |
電気泳動装置の価格が予想より低額で済んだたため。来年度は試薬代が多くかかる見込みなので繰り越して使用する。
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