2019 Fiscal Year Research-status Report
装着型行動記録装置とテロメア計測を用いた野生動物のライフコスト戦略の解明
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18K14788
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
水谷 友一 名古屋大学, 環境学研究科, 研究員 (00815475)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生理学的負荷 / 酸化ストレス / テロメア / 移動コスト |
Outline of Annual Research Achievements |
長寿命生物の一生における、採餌行動の影響や役割を解明するために、比較的短期に作用するコストとなる酸化ストレスの測定と変化を計測した。本研究では、繁殖期の動物の多様な採餌行動の違いが、生理的な負荷の違いを生み、生活史戦略の基盤である長期的コストへも影響しているか、採餌戦略の進化に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。 本年度は、初年度と同じ野生のウミネコLarus crassirostrisに対して、GPS・加速度データロガーの装着と採血を行なった。野生のウミネコに対して血漿からd-ROMsテスト (酸化度の測定) とBAPテスト (抗酸化力の測定) が利用可能であることが初年度の実験でわかってため、昨年同様に血漿成分から測定した。 長期間の安定した装着を可能としたハーネス装着法を取り入れたことで、データロガーの装着と回収の期間は、例年通りの約1週間程度の行動軌跡に加えて30日以上の行動軌跡が取得できた。一方でウミネコの酸化ストレスは、昨年度に比べて、BAP平均値およびばらつきには有意差がなかったが、d-ROMs平均値は著しく低かった。特定の個体のd-ROMs値や変化量が低いのではなく、2019年度全体として低かった。2年間の測定値しか比較できないため、次年度の野外調査で酸化ストレス値を測定し、ウミネコの一般的な酸化度の値を特定する。3年間の値を比較することで、ウミネコ個体群の抱卵期の一般的な酸化ストレス値を明らかにし、値の突出した年には個体群へ影響する規模の外的要因が存在していると考えられるため、その年の何がウミネコの生理状態へ影響していたのか原因の特定を行う。また、この大規模な環境変動はテロメア長変化へも影響していることがわかっているため、タイムスパンの異なるストレス指標である酸化ストレスとテロメアの関係性を明らかにするために必要な情報を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画では、昨年度の結果で、酸化ストレス(dROMsとBAPテスト)の利用が、野生動物へも条件次第で十分利用可能であることがわかったため、それを利用して本年度も中期的な生理的ストレスとして酸化ストレスを利用した。初年度と2年目と酸化度の値が著しく異なっていたため、3年目の測定値が必要となった。一方で、3年目のサンプリングで個体の長期間のストレス評価としてのテロメア長の測定とその変化を算出できるため、短期間の生理的負荷と長期的な負荷との関連、個体の行動と行動による身体への生理的影響を異なるタイムスパンの指標で解析する準備が整った。 しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、野外調査が大幅に縮小している現状のため、2020年度にどれだけのデータ収集とサンプリングが可能となるのか不明となった。
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Strategy for Future Research Activity |
4月中旬の野外調査開始時点で、非常事態宣言が発令されており、ウミネコの繁殖調査が計画通り開始できなかった。非常事態宣言の限定解除に伴い、実施内容の制限付きで野外調査 (行動調査の一部と1回の成鳥からの採血) を行い、3年間の長期的なストレスを測定し、採餌行動の中期的な生理的コスト(酸化ストレス)と採餌行動が生む長期的な生理的コスト(テロメア)をリンクさせる予定である。この際に捕獲対象とする個体は、過去2年間で行動調査の履歴がある個体を最優先で行う。 得られた3年間を比較し、ウミネコ抱卵期の一般的な酸化ストレス値による生理的負荷の度合いを算出する。その値に著しい差があれば、個体群へ作用した外的要因の特定も同時に行う。 行動データについて、一腹卵数により移動の傾向に雌雄差があったため、一腹卵数と行動、生理学的負荷(酸化ストレスとテロメア)に注目して解析を行う。また、同一個体の採餌移動の年間傾向と生理学的負荷も併せて解析し、研究の総括を行う。
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Causes of Carryover |
実験間誤差を極小化できる方法を発見したため、本年に野外調査で得たサンプルのうち、本年度中に実験するよりも翌年度と併せて実験を行った方が実験間誤差を少ないと判断した。そのため、本年度に購入する予定であった試薬類の一部を次年度に一括購入し、実験する計画に変更した。
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Research Products
(11 results)