2019 Fiscal Year Research-status Report
鳥類の音声コミュニケーションにおける文法能力の発達機構
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18K14789
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 俊貴 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (80723626)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コミュニケーション / 発達 / 文法 / 言語 / 鳥類 / 動物行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダーウィン以来140年以上にわたって、動物の発する鳴き声は「求愛」や「威嚇」など単純な情報しか伝えず、意味をもつ音声を組み合わせて文をつくる文法能力はヒトに固有に進化したと考えられてきた。それに対して申請者は、鳥類の一種・シジュウカラが異なる意味をもつ鳴き声を一定のルールに従って組み合わせ、より複雑な情報を伝えていることを発見した。しかし、本種がこの文法能力をどのようにして発達させるのか未だに明らかでない。そこで、本研究では、シジュウカラのヒナが、音声を組み合わせたり語順を認識したりする高度な情報処理能力を、どのような過程・機構によって発達させるのか明らかにする。本課題は、動物における文法能力の発達機構を野外において解明する国内外で初めての試みであり、ヒトの言語の習得機構の適応・進化理論に対しても生態学的根拠を与えうる学際的な研究である。 2019年は、巣箱を利用して繁殖したシジュウカラのヒナを対象に、発声能力や音声認識能力の発達過程に関して野外調査・実験をおこなった。気象状況が好ましくなく前年度に十分な数のデータを得ることができなかったため、2019年度は設置する巣箱の数を増やし、前年度と同様の録音調査・野外実験を遂行した。 また、野外研究と並行して、関連する4編の総説論文(Current Biology、Philosophical Transactions of the Royal Society B、Animal Behaviour、Learning & Behavior)と2編の原著論文(Current Biology、Behavioral Ecology and Sociobiology)を執筆し、発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長野県北佐久郡に位置する冷温帯落葉樹林において野外研究をおこなった。本調査地に木製の巣箱を80個仕掛け、それを利用したシジュウカラを対象に研究をおこなった。 まず、シジュウカラのヒナが、発声能力(音声の組み合わせや文法)をどのような過程を経て発達させるのか明らかにするために、録音調査をおこなった。多くのスズメ目鳥類と同様に、シジュウカラは巣箱のなかでは餌乞いの声しか発さず、音声の組み合わせなどの複雑な発声は、巣立ち後2ヶ月ほどかけて発達する。そこで、巣箱のなかだけでなく、巣立ち後もヒナを追跡し、1週間おきに音声の録音をおこなうことで、その発達過程を明らかにしようと試みた。捕食者に対する警戒声の録音は、捕食者(モズ)の剥製を用いて捕食者の襲撃を模すことでおこない、コントロールとしては捕食者でない鳥類(キジバト)の剥製を提示した。 次に、各音声から情報を読み解く能力や、音声の組み合わせに文法のルールをあてはめる能力が、どのような過程を経て発達するのか明らかにするために、音声再生実験をおこなった。孵化後5日目、11日目、17日目のシジュウカラの巣箱において、警戒声、集合声、それらの組み合わせ音声をスピーカーから再生し、巣箱内部に仕掛けた小型カメラの映像をもとに、ヒナの反応を記録した。また、ヒナが語順を認識するかどうか明らかにするために、人為的に語順を入れ替えた合成音(文法ルールに反する音声)も再生し、反応を検証した。コントロールとしては、音声を含まない背景の音(風音)を再生した。巣立ち後もヒナを追跡し、1週間おきに上記の音声を再生することで、ヒナの反応(警戒行動や接近行動)がどのように発達するのか明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、発声能力や音声認識能力の発達が、学習によるものなのか生得的に備わったものなのか検証するために交叉養育実験をおこなう計画である。シジュウカラの卵をヤマガラの巣箱に1つ人為的に移し入れ、ヤマガラの親に抱卵・育雛させる。そして、交叉養育したシジュウカラのヒナを対象に、前述と同様の録音・実験をおこなう。シジュウカラとヤマガラの音声は明瞭に異なることから、これら2種の巣で育ったシジュウカラのヒナを比較することで、育った音声環境(学習の機会)の違いが文法能力の発達に与える効果を検証することが可能である。 本課題で得られた研究成果は論文化し、学術誌に投稿する。また、国内外の学会においても発表する。研究内容は、プレスリリースや一般向けの解説記事の執筆などを通して、積極的に社会に発信してゆく。
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Causes of Carryover |
2018年度は、4月半ばの温暖な気候から一転し、4月下旬に気温が一気に低下したため、研究対象種(シジュウカラ)の抱卵の中断や捕食などによる繁殖失敗が例年の5倍以上と極めて高く、充分な数のデータを得ることができなかった。それに伴い、2019年度に前年度の調査・実験を再度行う必要が生じた。結果として、2019年度におこなう予定であった実験を2020年度に延期する必要が生じた。
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