2019 Fiscal Year Research-status Report
脊椎動物における成体脳の再生能力を制御する分子機構の解明
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18K14824
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
清水 勇気 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (30778064)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ラジアルグリア / 神経再生 / ゼブラフィッシュ / 遺伝子発現変動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゼブラフィッシュは高い再生能力を持つことが報告されてきたが、これまでに作製したゼブラフィッシュ中脳損傷モデルではラジアルグリアが神経幹細胞として組織再生に寄与し、Wntシグナルの活性化が必要であることを明らかにした。本研究課題ではさらに中脳損傷モデルを用いた網羅的な遺伝子発現解析および機能解析を行い脊椎動物の神経再生を制御する分子基盤の解明を目指すものである。 1)中脳損傷モデルを用いた網羅的な遺伝子発現解析:昨年度実施したゼブラフィッシュ中脳損傷モデルを用いたRNA-seqと公開データとして登録されているマウス脳梗塞モデルのRNA-seqの比較解析を行った。ゼブラフィッシュでののみ発現上昇する遺伝子に着目したところ、397個の遺伝子が抽出された。さらに、DAVID6.8を用いてパスウェイ解析を行った結果、12個の分泌タンパク質が含まれていることが明らかになった。 これらの12個の遺伝子のうち、4遺伝子がげっ歯類脳損傷モデルにおいて脳保護的な作用を示し、2遺伝子はそれぞれのKO個体で損傷による影響が大きくなることなどが既に報告されていた。これらの結果は、再生能力の異なる生物種間での遺伝子発現変動の比較が再生制御因子の探索に有効であることを示唆しており、本研究計画のコンセプトの有用性を示すものであると考える。最終計画年度において機能が明らかにされていない遺伝子の解析を進める。 2)ゼブラフィッシュを用いた遺伝子の機能解析:ゼブラフィッシュ中脳損傷後のRNA-seqにより活性化が示唆されるシグナル経路について、阻害剤を用いて神経幹細胞の増殖に与える影響を解析したところ、阻害剤により細胞増殖が抑制された。ゼブラフィッシュ-マウス間のRNA-seqの比較で絞り込まれた遺伝子について、定量PCRにより遺伝子の発現変動の確認を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では以下の3つの研究を通じて成体脳の再生を制御する分子機能の解明を目指す。本年度は解析候補遺伝子の絞り込み、ゼブラフィッシュにおける発現変動の確認および再生との関連が示唆されたシグナル経路の解析を行った。研究機関の異動に伴い、生物を用いた解析の進捗に遅れが見られるが、遺伝子の絞り込みにおいて有用性が期待され、かつ、機能解析が比較的容易な遺伝子群が抽出されたことから、最終年度に完了させることが可能であると考える。以下にその詳細を述べる。 1)中脳損傷モデルを用いた網羅的な遺伝子発現解析:ゼブラフィッシュのRNA-seq解析と同じタイムポイントであり、組織全体由来のサンプルの解析であるマウス脳梗塞モデルの公開データが、計画申請後に新たに利用可能となり、比較解析を行った。ゼブラフィッシュでのみ発現が上昇する12個の分泌タンパク質などが抽出された。これらの遺伝子群の約半数は既に再生促進や脳保護が報告されていたことは、本研究のコンセプトである「再生能力の異なる生物種を用いた遺伝子発現変動比較による再生制御因子の探索」が有用であることを示唆している。分泌タンパク質の機能解析を最終年度は進めるとともに、転写因子など因子についても詳細な比較解析を進める。 2)ゼブラフィッシュを用いた候補遺伝子の機能解析:比較解析などにより抽出した3つの再生関連シグナルについて、qPCRによる遺伝子の発現変動の確認や阻害剤による機能解析を行った。また、生物種間での遺伝子発現変比較により抽出された分泌タンパク質については、脳脊髄液へのインジェクションを行い機能解析を進めている。 3)マウスなど哺乳類における遺伝子の機能解析:哺乳類での系では機能解析が行えていないが、機能解析が比較的容易な分泌タンパク質についてマウスの初代培養やヒト由来のcell lineを用いたin vitroの系での機能解析を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
損傷モデルでの発現変動遺伝子解析および生物種間の比較により絞り込んだ候補遺伝子について、以下の3つの研究を通じてゼブラフィッシュおよびマウスを用いた解析を行うことで、生物種間の共通点・相違点を明らかにし、脊椎動物の成体脳の再生を制御する分子基盤の解明を目指す。 1)中脳損傷モデルを用いた網羅的な遺伝子発現解析:ゼブラフィッシュのRNA-seq解析と同じタイムポイントであり、組織全体由来のサンプルの解析であるマウス脳梗塞モデルのproteomeの公開データが利用可能となっており、RNA-seqと合わせた生物種間の比較解析を行う。 2)ゼブラフィッシュを用いた候補遺伝子の機能解析: 生物種間での遺伝子発現変比較により抽出された分泌タンパク質について、リコンビナントタンパクやアンチセンスモルフォリノオリゴの脳脊髄液へのインジェクションや阻害剤を用いた機能解析を進める。 3)マウスなど哺乳類における遺伝子の機能解析: マウス成体脳を用いたニューロスフィア・アッセイ系やcell lineを用いて候補遺伝子の神経幹細胞の増殖・分化における機能を解析する。生物種間比較で抽出されたサイトカインなどの分泌タンパク質について、培養液への添加や阻害剤などを用いた機能解析を行う
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Causes of Carryover |
研究機関の異動に伴う生物実験の遅れなどにより購入予定の試薬などの一部を次年度の計画に回したため。計画通り、遺伝子の機能解析に関する試薬等の購入に予算を使用する。
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Research Products
(2 results)