2018 Fiscal Year Research-status Report
Contributions of retinal ON and OFF pathways to visual information processing in mice
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18K14850
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
杉田 祐子 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (30712301)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 神経科学 / 視覚 / 眼球運動 / マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
網膜は外界からの光情報を視細胞で電気信号の変換し、明暗、方向選択性や動きの検出などの情報処理を行う中枢神経組織である。網膜内の二次ニューロンである双極細胞は機能的にON型とOFF型に分かれ、視細胞からの視覚情報は双極細胞以降でON・OFF経路に分かれる並列情報処理が行われる。 本研究では、網膜における並列情報処理メカニズムの機能的役割の解明を目的に、視運動性応答(OKR)測定によるマウス視機能解析を通じて、網膜並列情報処理の機能的役割を解明することを目指す。当該年度では、OFF型双極細胞の完全欠損マウスを新たに作製し、OFF経路の視覚における生体機能の解明に取り組むと同時に、ON経路とOFF経路のOKRに基づく視覚処理の時間的特性を調べる研究を行った。 霊長類の研究において、2つの連続する画像フレームからなる仮現運動刺激では、最初と次のフレームの間(ISI: inter-stimulus-interval)に平均輝度の画面を挿入すると刺激の移動と逆向きの運動が知覚される。この効果は、視覚処理機構の時間応答特性のバンドパスによって説明でき、マウスでもこの現象が起こることを確認した(Miura et al, 2018)。 ON経路とOFF経路の時間的特性を理解するために、網膜ON型双極細胞が欠損されたモデルマウスを用いてISI実験を行った。網膜ON型双極細胞欠損マウスの場合、野生型マウスよりも短いISIでOKRの進行性の減少および方向逆転が見られた。これらの結果は、ON型双極細胞欠損マウスの時間的特性が野生型マウスと比較して速いことを示し、時間分解能におけるON、OFF経路には異なる役割があることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の研究は、部位特異的組み換え系であるCre/loxP、Flp/FRTシステムを用いた遺伝子組換えマウスにタモキシフェン注入によってOFF双極細胞特異的にジフテリア毒素(DT-A)を誘導させる方法で、OFF双極細胞欠損モデルマウスを作製する計画である。 以前、双極細胞に特異的に発現すると考えられてきたChx10遺伝子BACを用いて、Chx10-FRT-CreERT2-FRT ノックインマウスを作製しレポーターマウスを用いて検証したところ、Chx10が弱いながらミューラーグリアに発現していたことから、Creがグリア細胞でも活性化され、双極細胞特異的な組換え活性が得られなかった。研究計画を遂行するために、データベースに報告されている複数の網膜細胞のRNAデータを解析し直したところ、膜蛋白質をコードする遺伝子のうち、脳には発現せず、網膜の双極細胞特異的で、かつ全てのONとOFF双極細胞のサブタイプを通じて発現する遺伝子を見つけることができた。Chx10に代わりに、この遺伝子ノックインマウスを作製し、成体マウスにタモキシフェンを注入することによってOFF型双極細胞を成体で特異的に欠損させる。 また、OFF双極細胞欠損モデルマウスの作製と同時に、ON型双極細胞が欠損されたモデルマウスを用いてISI実験を行った。網膜ON型双極細胞欠損マウスの場合、野生型マウスよりも短いISIでOKRの進行性の減少および方向逆転が見られた。これらの結果は、ON型双極細胞欠損マウスの時間的特性が野生型マウスと比較して速いことを示し、時間分解能におけるON、OFF経路には異なる役割があることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
OFF型双極細胞の完全欠損マウスを新たに作製し、OKRのよるマウス視覚機能の解析を通じて、OFF経路の視覚における生体機能の解明に取り組んでいる。部位特異的組み換え系であるCre/loxP、Flp/FRTシステムを用いた遺伝子組換えマウスにタモキシフェン注入によってOFF双極細胞特異的にジフテリア毒素(DT-A)を誘導させる方法で、OFF双極細胞欠損モデルマウスを作製する。このモデルマウスの網膜において、OFF型双極細胞が欠損されているか確認するため、網膜組織切片を作成し、OFF型双極細胞マーカー抗体を用いて免疫染色を行う。モデルマウスが作製できたら、OFF型双極細胞欠損マウス、ON型双極細胞欠損マウス、野生型マウスの眼球運動を測定する。得られた結果から、必要であれば視覚刺激パラメータを変えた実験プランを考え、追加実験を行う。どのパラメータでON欠損、OFF欠損の影響が出るのかを明らかにし、OKRにおけるOFF経路の特性を考察する。 また、ON、OFF経路には異なる時間特性があることが当該年度の研究で明らかになった。この結果を踏まえて、ON、OFF経路間の並列情報処理と時空間特性の関係を明らかにする。 当該年度までに得られた結果及び次年度の結果について学会報告および論文投稿を計画している。
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Causes of Carryover |
平成30年6月18日に発生した大阪北部地震で、8階に位置する研究室が多数の器機や試薬の損壊を受けるなど甚大な被害を受け、実験の一時中止を余儀なくされ、研究再開のために時間と労力を要し、研究の進行が一時滞ったため繰り越しが必要になった。
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Research Products
(3 results)