2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K14855
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
松田 隆志 基礎生物学研究所, 統合神経生物学研究部門, NIBBリサーチフェロー (90803065)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 水分欲求 / コレシストキニン / 脳弓下器官 / カルシウムイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
以前の研究において、研究代表者は、脳弓下器官(SFO)において水分摂取を指令するニューロン(水ニューロン)を同定するとともに、塩欠乏時においてSFOに分泌されるコレシストキニン(CCK)が抑制性ニューロンを活性化することで、水ニューロンの活動を抑制することを明らかにした(Nature Neurosci., 2017)。本研究では、SFOにおいてCCKを分泌する細胞の同定およびその分泌制御機構の解明を目的にしている。 研究代表者はこれまでに、2つの神経核(X,Y)にあるCCK産生ニューロンの一部がSFOに投射することを明らかにしていた(未発表)。そこで、CCK産生細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現する遺伝子改変マウス(CCK-Creマウス)のそれぞれの神経核において、光感受性陽イオンチャネルであるチャネルロドプシン2 (ChR2)をCre依存的に発現させ、SFOにおいて青色光を照射する実験を行った。その結果、神経核(X)のCCK産生ニューロンを活性化させたマウスにおいて脱水時の水分摂取が抑制されることを明らかにした(未発表)。もう一方の神経核(Y)のCCK産生ニューロンを活性化させても水分摂取に影響は見られなかった。 次に、電気生理学的手法を用いて、このCCK産生ニューロンがSFOの抑制性ニューロンを活性化するか検討した。CCK-Creマウスと抑制性ニューロンにGFPが発現するGAD-GFPマウスを掛け合わせ、それぞれのニューロンを標識した脳スライスを作成し、それぞれの神経活動を記録した。その結果、SFOの抑制性ニューロンの一部にはCCK受容体を発現するものがあり、CCK産生ニューロンから入力を受けていることが明らかとなった(未発表)。 これらの結果から、当初の目的通り、SFOにおいてCCKを分泌する細胞を同定することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以前の研究代表者の研究成果から、塩欠乏時においてSFOにCCKが分泌されていることは分かっていたが、CCKを分泌する細胞については全く明らかにされていなかった。そこで、本研究計画では第一に、この細胞を同定することを目的としていた。遺伝子改変マウスとウイルスベクターを用いた遺伝子導入法を組み合わせた細胞標識法により、研究代表者は、SFOにおいてCCKを分泌するCCK産生ニューロンを同定することに成功した。また、光遺伝学を用いることで、脱水時において、このニューロンに水分摂取を抑制する機能があることを明らかにした。 次の研究課題として、CCK産生ニューロンがどのような生理的条件下で活動するのか検討する。そのため、in vivoカルシウムイメージング法により、CCK産生ニューロン選択的に神経活動を観察することを計画している。CCK産生ニューロンにGCaMPを発現させ、神経活動に伴う細胞内Ca2+濃度の変化を蛍光強度の変化として検出する。これまでの予備実験により、脳内にGRINレンズを挿入し、小型蛍光顕微鏡を用いることで、自由行動下のマウスにおいてCCK産生ニューロンの神経活動を観察することに成功している。 また、以前の研究成果から、研究代表者は、SFOの水ニューロンが終板脈管器官(OVLT)に情報を伝達して水分摂取を誘導することを明らかにしている。しかし、OVLTから下流の伝達経路はわかっていないため、本研究計画では第二に、水ニューロンからシグナルを受容する下流のニューロン(二次水ニューロン)を同定することを目的としている。 この目的を達成するために、ウイルスが感染した神経細胞から下流の神経細胞に目的遺伝子を発現させるトランスシナプス標識法の確立を目指し、実験を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでと同様に当初の計画に基づいて研究を進める。まず、SFOにおいてCCKの分泌を制御する神経機構を明らかにするため、CCK産生ニューロンがどのような生理的条件下において活動するのか検討する。in vivoカルシウムイメージング法により、自由行動下のマウスにおけるCCK産生ニューロンの活動を観察しながら、マウスを塩欠乏状態や脱水状態にした際に、それぞれのCCK産生ニューロンの活動がどのように変化するのか検討する。また、脳室内に低張液を投与して細胞外液のNa+濃度を低下させた際に、CCK 産生ニューロンの活動が上昇するか観察することで、CCK 産生ニューロンが細胞外液のNa+濃度に応答して活動しているのか検討する。 また、二次水ニューロンを同定するため、SFOの水ニューロンから入力を受けているOVLTのニューロンを標識し、その神経終末を観察することで二次水ニューロンの投射先を明らかにする。さらに、二次水ニューロンにChR2を発現させ、その投射先に青色光を照射することで水分摂取行動が誘導されるか検討する。。 研究代表者はこれまでの研究において、SFOの興奮性ニューロンの中から、水分摂取を指令する水ニューロンおよび塩分摂取を指令する塩ニューロンを同定するとともに、それらの投射先および調節機構の存在を明らかにした。水分摂取制御を担う神経機構の全容解明のため、水ニューロンの活動調節機構および下流神経回路の解析を上述の手法を用いて達成したいと考えている。
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