2018 Fiscal Year Research-status Report
Ketone body-utilizing enzyme as a potential target for prevention and treatment of cognitive impairment
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18K14908
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Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
長谷川 晋也 星薬科大学, 薬学部, 助教 (60386349)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 認知機能障害 / ケトン体代謝 / 脂質代謝異常 / アセトアセチルCoA合成酵素 / CRISPR/Cas9 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー型認知症などの認知機能障害は大部分が晩期発症型で、家族歴のない孤発例である。原因として関連が示唆されているのは脂質代謝異常であるが、未だ発症機序に不明な点が多く、その治療も対症療法を中心としている。近年、血中ケトン体濃度を増加させる高脂肪低糖質食が「ケトン食」と呼ばれ、認知機能障害などの神経変性疾患を改善することが報告されているが、その作用メカニズムは不明な点が多い。我々は、ケトン体代謝酵素であるアセトアセチルCoA合成酵素 (AACS) が脂質代謝に関わること、初代培養神経細胞の正常な発達に重要な役割を果たすことを明らかにした。本研究では、アルツハイマー型認知症の原因と考えられる脂質代謝異常、そして治療効果が期待できるケトン食を繋ぐ因子としてAACSの役割を検討し、認知機能障害の予防や治療の発展に繋げることを目的とする。 ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9 systemを用いて、AACSのノックアウトマウスを作製し、脳・神経系に対する影響を検討した。その結果、AACSの欠損により、興奮性シナプスの入力を受ける樹状突起スパインの形状に関わる因子が減少した。また、マイクロアレイによりAACS欠損の影響を網羅的に解析すると、神経の発達に関連する因子が減少し、セロトニン受容体が変動していた。以上の結果は、ケトン体代謝が神経の発達だけでなく、神経伝達物質の代謝にもかかわる可能性を示唆しており、認知機能とケトン体代謝障害との関係を検討するうえで有用である。また、ヒトの成人または胎児の脳から抽出したRNAを使用し、ヒトのAACSをクローニングした結果、マウスには存在しない複数のスプライシングバリアントを単離した。これらのアイソフォームはケトン体代謝活性がないことから、AACSはヒトの脳神経系において、ケトン体代謝だけでなく多様な役割を持つ可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AACSのノックアウトマウスでは、研究実績の概要に記載したように、スパインの形状に関わるシナプトポディンの発現が減少した。また、マイクロアレイ解析により、野生型とAACSノックアウトマウスの遺伝子発現量を検討したところ、神経発達に関わるNeuroD4や、セロトニンの作用に関わるセロトニン受容体アイソフォームの発現が変動していることが明らかになった。これらの結果は、AACSの従来知られていない神経機能に対する影響を示唆しており、今後の発展が期待できる。また、血中脂質濃度を検討した結果、コレステロールや脂肪酸の濃度に有意な変動は認められなかったが、AACSの欠損により血中ケトン体濃度は有意に増加しており、トリグリセリド濃度は減少した。これらの結果は、AACSが神経の発達だけでなくトリグリセリド代謝に関与する可能性を示唆しており、当初の計画だけでなく、脂質代謝異常などの治療標的としてのAACSの可能性も考えられる。 ヒト脳組織において、AACSをクローニングすると、ヒトにおいてはエクソン12や17、そして両方を欠損したスプライシングバリアントが存在することを明らかにした。以前の研究により、ヒトAACSの632番目のアミノ酸が変異すると、低血糖やてんかんなどを引きおこす可能性が示唆されている。この変異はAACSの活性に影響しないが、新たに単離したアイソフォームの機能に関わる可能性が考えられる。 以上の結果は、AACSの神経機能における役割を明らかにするだけでなく、脂質代謝異常などの治療標的としてのAACSの可能性も示している。また、ヒトにおいて従来知られていないアイソフォームを単離しており、次年度以降これらの機能解析をすることで、AACS並びにケトン体代謝の神経機能に対する影響を明らかにできるため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の結果から、AACSを介したケトン体代謝が、神経発達や神経伝達物質の作用に関わる可能性が示唆された。2019年度以降は、神経機能に対する影響を検討するために、AACSの欠損による神経発達障害のメカニズムの解明を行う予定である。AACSのノックアウトマウスにおいて変動した神経機能に関わる因子、その分子機構を検討することは、高次脳機能におけるケトン体代謝の役割の解明や新規治療標的の探索に重要である。そこで、神経芽細胞腫であるNeuro-2a細胞やSH-SY5Y細胞を用いてAACSをノックダウンし、AACSの代謝経路であるメバロン酸経路やコレステロール、脂肪酸などを処理しそのメカニズムを検討する。また、ヒトAACSアイソフォームの細胞内局在や神経分化に対する影響を検討する。得られた結果から、関与が予想される疾患モデルマウスを使用し、AACS欠損の病態に対する影響を、行動実験を含め検討する。また、本年度の結果より、AACSがトリグリセリド代謝異常に関与する可能性が示唆された。マウスに高脂肪食負荷すると認知機能が低下することが報告されているため、高脂肪食負荷時の認知機能に対するAACS欠損の影響だけでなく、トリグリセリド代謝に対しての影響も併せて検討する。
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Causes of Carryover |
本年度実施予定であった疾患モデルマウスに関する研究は、AACSを欠損したマウスと野生型マウスをマイクロアレイによる網羅的解析で比較して、変動する遺伝子群を同定し、その結果を踏まえ標的を絞ったほうが効率的であるため、次年度に計上することとした。
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Research Products
(6 results)