2019 Fiscal Year Research-status Report
Ketone body-utilizing enzyme as a potential target for prevention and treatment of cognitive impairment
Project/Area Number |
18K14908
|
Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
長谷川 晋也 星薬科大学, 薬学部, 講師 (60386349)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 認知機能障害 / ケトン体代謝 / 脂質代謝異常 / アセトアセチルCoA合成酵素 / CRISPR/Cas9 / スプライシングバリアント |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー型認知症などの認知機能障害は大部分が晩期発症型で、家族歴のない孤発例である。原因として関連が示唆されているのは脂質代謝異常であるが、未だ発症機序に不明な点が多く、その治療も対症療法を中心としている。我々は、ケトン体代謝酵素であるアセトアセチルCoA合成酵素 (AACS) が脂質代謝に関わること、初代培養神経細胞の正常な発達に重要な役割を果たすことを明らかにしていることから、本研究では、AACSの脳機能における役割を検討し、認知機能障害の予防や治療の発展に繋げることを目的とした。 AACSの機能を、マウス個体およびヒト培養細胞を用いて検討した。ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9 systemを用いて作製したAACSのノックアウトマウスでは、体重や血中コレステロール、脂肪酸濃度に関して有意な変化は認められなかった。しかし、肝臓や脳において、コレステロール代謝に関わる遺伝子の発現が有意に変動していた。また、絶食状態にしたマウスの脳組織においては、脂肪酸の分解に関わるアセチルCoAカルボキシラーゼ2の発現が有意に減少したことから、AACSはエネルギー代謝に関わる可能性が示唆された。昨年度クローニングしたヒトAACSのスプライシングバリアントは、成人の脳組織においては全長のAACSが高発現していたが、胎児の脳においては全長AACSの発現は少なく、スプライシングバリアントの発現量が多かった。また、17番目のエクソンが欠損したスプライシングバリアントは、成人の脳や肝臓に比べて、胎児の脳において発現が多く、神経細胞の突起伸長過程において、その発現が神経マーカーであるMAP-2とともに増加した。以上のことから、ヒトAACSのスプライシングバリアントは、脳神経系の発達に関与する可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
絶食負荷を24時間かけたマウスにおいて、AACSの欠損は血中のケトン体濃度に影響しなかったが、脂肪酸のβ酸化を制御する、アセチルCoAカルボキシラーゼ2 (ACC2) の発現が、脳において有意に減少した。ACC2はミトコンドリア表面において、脂肪酸のミトコンドリア内輸送を阻害することから、AACSの欠損は間接的に脂肪酸のβ酸化を亢進する可能性が考えられる。 Western blotting によりヒト成人および胎児の脳組織におけるAACSのタンパク質発現を検討した。成人の脳組織においては全長のAACSが高発現していたが、胎児の脳においては全長AACSの発現は少なく、分子量が小さいAACSが多く存在しており、スプライシングバリアントの存在が考えられた。また、17番目のエクソンが欠損したAACSの遺伝子発現は、成人の脳や肝臓に比べて、胎児の脳において発現が多く、ヒト神経芽細胞腫であるSH-SY5Y細胞の神経突起伸長過程において、その発現が神経マーカーであるMAP-2とともに増加することをreal-time PCR法により明らかにした。以上のことから、ヒトAACSのスプライシングバリアントは、脳神経系の発達に関与する可能性が示唆された。 以上の結果より、AACSが脂肪酸のβ酸化などのエネルギー代謝に関わる可能性を明らかにした。脳・神経系の機能維持において、ミトコンドリアのエネルギー代謝は重要な役割を果たすことから、ケトン体代謝が神経の機能維持に重要な役割を果たす可能性が考えらえる。また、ヒトにおいてケトン体代謝活性のないAACSのスプライシングバリアントが胎児の脳組織に発現していること、その発現が神経細胞の突起伸長に伴い増加することを明らかにした。この結果は、ヒトAACSがケトン体代謝以外の役割を持つ可能性を示唆している。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、マウス個体と培養細胞の両系を用いて、ケトン体代謝欠損の神経機能に対する影響を検討する。2019年度の結果から、AACSを介したケトン体代謝が、脳神経系のエネルギー代謝に関わる可能性が示唆された。現在、AACSノックアウトマウスに高脂肪食を負荷し、脳・神経系に対する影響を検討している。併せて、血中の代謝産物を生化学的検査により測定する予定である。また、各臓器のコレステロールや脂肪酸の代謝産物に対するAACS欠損の影響を、質量分析法により解析する予定である。 病態モデルマウスにおけるAACS欠損の影響を検討する予定である。脂質代謝異常下の神経機能に対するケトン体代謝異常の影響を検討するために、高脂血症疾患モデルマウスを使用し、AACS欠損の病態に対する影響を、上記の項目や行動実験を含め検討する。 ヒトAACSのスプライシングバリアントに関しては、各臓器における遺伝子発現をreal-time PCR法を用いて検討する。また、ヒト神経芽細胞腫であるSH-SY5Y細胞において、CRISPR/Cas9 systemまたはRNA干渉法を用いてAACS欠損株を作製する。AACS欠損株にクローニングしたAACSスプライシングバリアントを過剰発現し、神経突起の伸長や神経マーカーに対する影響を検討する。
|
Causes of Carryover |
本年度実施予定であった、培養細胞を用いたケトン体代謝欠損の研究に関して、一部を次年度に実施し、使用する消耗品は次年度に計上することとした。
|