2018 Fiscal Year Research-status Report
プロバイオティクス由来膜小胞の機能解明と制御に基づく炎症性腸疾患の新規治療法開発
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18K14928
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Research Institution | Kyoto Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
森下 将輝 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (10811747)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | プロバイオティクス / 膜小胞 / ドラッグデリバリーシステム / 免疫療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、免疫調節作用など生体に有益な効果を与える微生物 (プロバイオティクス) が分泌する膜小胞が新たに発見された。しかし、プロバイオティクス由来膜小胞の生物学的意義の解明及び実用化には至っていないのが現状である。本研究では、新規免疫療法の開発を目的としてプロバイオティクス由来膜小胞の機能解明と制御を試みる。すなわち、プロバイオティクス由来膜小胞の生物学的意義の解明として、膜小胞の粒子形状の評価及び構成成分の解析を行う。さらに、膜小胞が生体での免疫応答に与える影響を検討するとともに、ドラッグデリバリーシステム (DDS) 技術を適用して膜小胞の体内動態を厳密に制御し、難治性炎症性腸疾患の治療を試みる。 当該年度は、乳酸菌及びビフィズス菌由来膜小胞の回収条件の最適化並びに基礎的特性の解明について研究を行った。膜小胞の回収については、各種プロバイオティクスの培養条件を最適化することで膜小胞産生量の改善が見られた。精製した膜小胞の粒子形状を観察したところ、直径100 nm程度であることが示された。膜小胞の構成成分を解析した結果、免疫調節作用を有するペプチドグリカンが存在することが明らかとなった。 膜小胞に関する基本的な情報が得られたため、続いて標的細胞に対する生物活性評価を行った。標的細胞として、免疫細胞であるマウスマクロファージ様細胞株RAW264.7及びマウス樹状細胞株DC2.4を用いた。これらの細胞に膜小胞を添加し、免疫調節因子であるサイトカインの産生量を評価した。その結果、特定のサイトカイン産生が膜小胞添加後に増大する傾向がみられた。 以上の検討から、プロバイオティクス由来膜小胞はその分泌細胞の特徴を反映し、免疫調節能を有することを明らかとした。これらの結果は、DDS技術による膜小胞の機能改変に大きく貢献するという点で意義深いものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の遂行には、プロバイオティクス由来膜小胞の基礎的特性に関する十分な知見が必要となる。当該年度は、プロバイオティクスの培養条件を最適化することで、種々の検討に要する膜小胞を回収することが出来た。さらに、顕微鏡観察や成分解析により生物学的意義の解明に繋がる膜小胞の実態を明らかにした。加えて、プロバイオティクス由来膜小胞が免疫調節能を有することも示された。これらの知見はドラッグデリバリーシステム (DDS) 技術による膜小胞の高機能化に有用であることから、研究はほぼ予定通りに進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、膜小胞が生体の免疫応答に与える影響の解明及びDDS適用による疾患治療を志向した高機能化を試みる。すなわち、マウスに対しプロバイオティクス由来膜小胞を経口投与する。その後、マウスの小腸及び大腸組織から RNA を抽出し、サイトカインの mRNA 発現量を real time RT-PCR により測定する。続いて免疫異常により発症する潰瘍性大腸炎を治療対象とし、大腸特異的な膜小胞の送達を目的とした高機能化を行う。ゲル化により徐放性を示すアルギン酸と、大腸の腸内細菌により分解を受けるキトサンから成るアルギン酸―キトサンカプセルに膜小胞を封入する。トリニトロベンゼンスルホン酸の投与により作成した潰瘍性大腸炎モデルマウスに対し、アルギン酸―キトサンカプセル封入膜小胞を経口投与する。治療効果は大腸組織中ミエロペルオキシダーゼ活性の測定、組織学的観察及び大腸重量測定により判定する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、当該年度は動物を用いた膜小胞の体内動態特性の解明及び制御を一部遂行する予定であった。しかしながら、プロバイオティクスの培養条件の最適化に時間を要したため、粒子形状の観察や培養細胞を用いた検討に留まり動物実験の着手には至らなかった。これらの要因により当該助成金が発生した次第である。よって翌年度は膜小胞の体内動態評価並びに制御に関する研究を重点的に行い、疾患モデル動物に対する有効性を検討する予定である。従って翌年度は当初よりも多くの物品費を支出する計画であることから、関連経費の執行に際しては当該助成金を充てる予定である。
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