2019 Fiscal Year Research-status Report
脂質メディエーター輸送体の機能変動が薬物誘発性肝障害発症の個体差に与える影響
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18K14965
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
島田 紘明 近畿大学, 薬学部, 助教 (40783444)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 肝障害 / プロスタグランジン / トランスポーター / 15-PGDH |
Outline of Annual Research Achievements |
薬物による肝障害は個人差が大きく発症の予測が困難である。本研究では肝組織の保護や修復に重要な脂質メディエーターの一つであるプロスタグランジン(PG) E2を基質とする輸送体の機能・発現変動が薬物による肝障害発症の個体差に与える影響を明らかにすることを目的とした。昨年度中に、典型的な肝障害モデルである四塩化炭素(CCl4)誘発性肝障害モデルマウス、薬物誘発性肝障害モデルとしてアセトアミノフェン(APAP)誘発性肝障害モデル、カルバマゼピン(CBZ)誘発性肝障害モデルマウスにおいて共通してPGE2の代謝酵素である15-PGデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)の肝臓における発現が減少することが示された。したがって、肝障害時のPGE2量調節は15-PGDHの発現減少により説明される可能性がある。そこで本年度では肝障害に伴う肝臓における15-PGDHやPGE2産生酵素の活性変動や、15-PGDHおよびPG輸送体(OATP2A1)の肝臓における発現局在を組織免疫染色法により検討した。さらに肝障害に伴う肝臓中PGE2およびその代謝物量の変動を同時評価するために、LC-MS/MS法による肝臓中および血漿中PGE2定量法を確立した。これまでに、CCl4誘発性肝障害モデルにおける肝組織および血漿中PGE2量がPGE2産生酵素の発現誘導に依らず、肝血管内皮細胞に発現する15-PGDHの発現量に依存して調節されることを報告した。その他の肝障害モデルについても同様に、15-PGDHの発現変動により肝PGE2量が制御されることが示唆されていることから、現在は肝PGE2動態制御におけるOATP2A1の役割を評価中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、各種肝障害モデルマウスの肝臓におけるPGE2産生活性および代謝活性の評価、OATP2A1や15-PGDHの肝臓における発現局在の検討、LC-MS/MS法による組織中PGE2とその代謝物の定量法の確立が遂行できた。CCl4誘発性肝障害モデル、CBZ誘発性肝障害モデルにおいては、肝臓におけるPGE2産生に関わるCOX、mPGESや15-PGDHの発現変動同様に、PGE2産生活性は誘導されず、代謝活性が顕著に減少していた。一方で、APAP誘発性肝障害モデルにおいては肝mPGES-1発現が顕著に増加したにも関わらず、PGE2産生活性の誘導は見られなかった。したがって、肝障害の種類に依らずに基本的には15-PGDHの発現減少により、肝障害時のPGE2量が増加することが明らかになった。CCl4誘発性肝障害モデルにおける肝PGE2量調節機構については論文報告済みである。今後の検討に向けて、肝臓におけるOATP2A1の機能評価を目的に、in situ肝還流法によるPGE2動態評価方法や血管内皮細胞の単離方法の確立に取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
■肝臓におけるOATP2A1の機能評価方法の確立 これまで肝障害時にOATP2A1の発現変動が見られることを明らかにしているが、その発現変動がどのように肝PGE2動態に影響するかは不明である。そこで、門脈から肝静脈にかけてin situ肝還流を行い、内因性PGE2の経時的な定量や標識化したPGE2を還流液中に添加して経時的な消失を評価することで肝PGE2動態を評価することを試みる。特にOATP2A1の機能を評価することを目的に、OATP2A1阻害薬の共存条件やin vivo siRNAによる肝OATP2A1遺伝子発現抑制条件における肝PGE2動態を検討する。健常マウスで方法を確立した上で、肝障害モデルマウスにも適用することで、肝障害発症によるOATP2A1発現変動に伴うPGE2動態の変動について検討する。本法での検討が困難である場合、肝臓から血管内皮細胞やクッパー細胞を単離して、PGE2取込みや分泌試験を行うことでOATP2A1の肝臓における機能を推察する。 ■肝臓における15-PGDHやOATP2A1の発現変動メカニズムの解明 肝障害時にどの細胞でどのように15-PGDHやOATP2A1の発現が変動するのかを明らかにする目的で、肝臓から血管内皮細胞やクッパー細胞を単離してAPAPやCBZ処置による15-PGDHやOATP2A1発現への影響を評価する。必要に応じて単離肝細胞との共培養条件についても検討し、どのような刺激がどのような細胞内経路により15-PGDHやOATP2A1発現に影響するか明らかにする。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、内因性PGE2の体内動態やOATP2A1による輸送が評価困難な場合に、本年度に放射性同位体を用いて評価することを試みていた。しかし、内因性PGE2および代謝物量や重水素ラベル化されたPGE2とその代謝物をLC-MS/MSにより評価することにより、上記検討が可能であると判断した。また、LC-MS/MSにより組織中のPGE2量を測定する方法が確立したため、PGE2定量用のELISAキットの購入が不要となった。以上の理由により、次年度使用額が生じた。 本年度の研究成果より、肝障害時の肝PGE2量の増加がPGE2産生酵素の発現誘導に依らず、PGE2代謝酵素の発現減少により調節されることが初めて明らかになった。そこで次年度では、OATP2A1に加えて15-PGDHの肝障害時の肝PGE2動態制御に与える役割を検討する目的で、in vivo siRNA法により肝臓におけるOATP2A1や15-PGDHの遺伝子発現抑制条件下における肝障害の程度や肝PGE2量への影響について追加検討する。
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Research Products
(4 results)