2018 Fiscal Year Research-status Report
シスプラチン耐性獲得機構におけるミトコンドリア機能不全の役割の解明
Project/Area Number |
18K14996
|
Research Institution | Kobe Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
堀部 紗世 神戸薬科大学, 薬学部, 助教 (50389110)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | シスプラチン / ミトコンドリアDNA |
Outline of Annual Research Achievements |
白金製剤であるシスプラチンは、肺がんの治療に使用される化学療法剤の一つで、長期投与により耐性が生じることが問題となっている。しかし、シスプラチンに対する耐性を獲得する機構は依然として不明である。ミトコンドリアDNAは、電子伝達系を担う遺伝子をコードしており、ミトコンドリアの機能を調節している。ミトコンドリアDNAを欠損させてミトコンドリア機能が低下したがん細胞では、抗がん剤に対する感受性が低下することが報告されている。シスプラチンは、核DNAだけでなくミトコンドリアDNAにも付加するため、ミトコンドリア機能を低下させる可能性が考えられる。現在、シスプラチン耐性細胞においてミトコンドリアの酸素消費量が低下していることを見出している。本年度は、シスプラチン耐性細胞のミトコンドリア機能低下の要因について検討した。ミトコンドリア機能低下には、ミトコンドリアDNAの量・質の異常の関与が考えられる。そこで、ミトコンドリアDNAの発現制御に関与するミトコンドリア転写因子Aおよびミトコンドリア RNA ポリメラーゼのmRNAの発現およびミトコンドリアDNAの量をreal-time PCRで解析した。その結果、シスプラチン耐性細胞におけるこれらの発現が有意に増加していた。このことから、シスプラチン耐性細胞ではミトコンドリアDNA合成が亢進していることが明らかとなり、ミトコンドリア機能低下の要因ではないことが推察された。そこで、ミトコンドリアDNAの質の変化について、ミトコンドリアDNAを抽出してDNAシークエンスを行った。その結果、シスプラチン耐性細胞のみに観察されたミトコンドリアDNAの変異が5か所見つかり、いずずれも電子伝達系の複合体Iをコードする遺伝子であった。そのため、ミトコンドリアDNA変異によるミトコンドリア機能低下がシスプラチンに対する耐性獲得に関与する可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
シスプラチン耐性細胞におけるミトコンドリア機能低下の原因を明らかにするために、ミトコンドリアDNAに着目し、研究を進めている。ミトコンドリアDNAの質・量の異常は、ミトコンドリア機能異常をもたらし、糖尿病などの様々な疾患に関与する。現在まで、シスプラチン耐性細胞では、ミトコンドリアDNAの発現調節する因子であるトコンドリア転写因子Aおよびミトコンドリア RNA ポリメラーゼのmRNA発現量は、有意に増加しており、ミトコンドリアDNA量も有意に増加していた。この結果は、シスプラチン耐性細胞でミトコンドリア機能が低下している結果と一致していなかった。以上から、ミトコンドリアDNAの質の異常があるか明らかにするために、ミトコンドリアDNAのシークエンスを行った。その結果、シスプラチン耐性細胞のみで観察されたミトコンドリアDNAの変異が5か所あり、いずれも電子伝達系の複合体Iに関与する遺伝子であった。シスプラチン耐性細胞で観察されたミトコンドリアDNAの異常がシスプラチン耐性獲得機構に関与するか明らかにするために、細胞雑種形成を行いミトコンドリアDNAを入れ替えた細胞(cybrid)を作製し、シスプラチンに対する感受性の変化について検討している。 進行がやや遅れている理由として、細胞雑種形成の作製に時間を有したことが起因である。しかし、筑波大学の石川先生の協力により、cybridが完成し、現在、シスプラチンに対する感受性の変化について検討している。
|
Strategy for Future Research Activity |
ミトコンドリアDNAを入れ替えた細胞を作製し、シスプラチンに対する感受性の変化について検討する。さらにミトコンドリア機能の変化について検討する。また、代表的なミトコンドリアDNAの変異として、4,977 bp欠損がある。現在、シスプラチン耐性細胞において、4,977 bp欠損に約1,500 bpの塩基配列が挿入されていることを明らかにした。その塩基配列をDNAシークエンス解析を行ったが、途中までしか配列を解析することが出来なかった。そのため、次年度は外注でDNAプライマーフォーキングを行い、挿入された1,500 bpの塩基配列を解析する。さらに、現在、ヒト肺がん由来A549細胞を親細胞としたシスプラチン耐性細胞を用いて、研究をすすめている。そのため、他の細胞種でも同様にミトコンドリアDNAの変異によるミトコンドリア機能低下が、シスプラチン耐性獲得に関与するか、A549細胞と同様の検討をする予定である。 以上の結果から、ミトコンドリアDNAの変異がシスプラチン耐性獲得機構に関与するか、明らかにする。本研究で得られた結果は、シスプラチンに対する感受性を評価するバイオマーカーになる可能性が高い。
|
Causes of Carryover |
【理由】ミトコンドリアのDNAシークエンス解析は外注の次世代シークエンスで解析する予定だったが、シークエンスの解析を申請者本人で行ったため、消耗品費が少なくなった。ミトコンドリア機能をキットを用いて解析する予定でしたが、測定できる系を構築するために時間がかかったため、その分の消耗品費が少なくなった。論文投稿に料金がかからない雑誌に投稿したため、謝金金額がなくなった。 【次年度以降の使用計画】ヒト肺がんA549細胞由来のシスプラチン耐性細胞のみを実験に使用してきたが、今後はほかのがん細胞腫においても同様の結果になるか検討する。さらに、本年、4,977 bp 欠損部位に挿入されている約1,500 bp塩基配列を申請者本人が行うことが難しく、結果を得ることができなかった。そのため、次年度は外注でDNAプライマーフォーキングを行って、DNAシークエンスの解析をする。また、キットを用いたミトコンドリア機能を測定する実験系を構築できたため、シスプラチン耐性細胞だけでなく、ミトコンドリアDNAを入れ替えた細胞を用いてミトコンドリア機能を解析し、ミトコンドリDNAの変異がミトコンドリア機能低下を引き起こし、シスプランに対する耐性獲得に関与することを明らかにする。
|
Research Products
(5 results)