2019 Fiscal Year Research-status Report
社会ストレスによる神経形態変化を導く神経グリア相互作用の超微細細胞生物学的解明
Project/Area Number |
18K15028
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
永井 裕崇 神戸大学, 医学研究科, 助教 (30814587)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ストレス / ミクログリア / 軸索 |
Outline of Annual Research Achievements |
社会や環境より受けるストレスは抑うつや不安亢進など情動変容を誘発し、精神疾患のリスクとなる。マウスの社会挫折ストレスモデルにおいては前頭前皮質神経細胞の樹状突起萎縮やスパインの喪失などの萎縮性変化が情動変容に重要であることが示唆されてきており、その機序としてミクログリア活性化に代表される脳内炎症が重要であることが知られる。しかし、ストレスにより生じるミクログリアと神経細胞の直接的相互作用については殆ど知られていない。 本研究においてはストレス後の神経とミクログリアの接触に焦点を当て、その相互作用を明らかにすることを目的とする。 その目的のため、あらゆる細胞と細胞内小器官の可視化を可能とする三次元電子顕微鏡を用い、ストレス後の脳組織におけるミクログリアと神経細胞の三次元的再構築を実施した。その結果、急性の社会ストレス後にはミクログリアが軸索を取り囲む現象が亢進すること、一方で慢性の社会ストレス後にはその亢進が消失することを明らかにした。また、ミクログリアにより完全に貪食された神経構成要素の量はストレスの量や経過時間と関連しなかった。急性ストレスが情動変容よりもストレス抵抗性の増強を導くという先行研究を踏まえると、これらの知見は亢進した軸索-ミクログリア相互作用が神経活動を制御することによりストレス抵抗性を増強する可能性を示唆する。これらの軸索とミクログリアの相互作用界面を担う分子を明らかにし、その役割を調べる今後の研究が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ストレス病態において三次元電顕による超微細形態学的解析を初めて適応し、ミクログリアを軸索を三次元再構成することで、ストレスにより亢進する軸索-ミクログリア相互作用という新たな知見を得ることが出来た。これまでストレス病態においてはスパインとミクログリアの相互作用や、ミクログリアによる神経構成要素の貪食といった現象に着目されてきており、本研究で見出された軸索の部分的な包囲現象は概念的に新しい。極めて時間のかかる人力の三次元再構成を行うことにより予想外の知見を得られた点は評価できる。そのため、ストレス後の神経ミクログリア相互作用の直接的な実態を明らかにする点においては当初の計画通り進展している。しかし、ミクログリアと軸索の相互作用を担う分子の同定にはまだ至っておらず、その点においてはやや遅れている。ミクログリアと軸索の相互作用を観察するための膨張顕微鏡法などの立ち上げは終わっていることから、本研究課題で計画した技術基盤の確立には成功した。総合して、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題により見出した軸索-ミクログリア相互作用を担う分子機序を明らかにする必要がある。細胞間相互作用を担う分子や貪食に関係する分子を候補として免疫染色などを行い、軸索とミクログリアの接触面に集積する分子を調べる。分子を同定できた場合には、軸索やミクログリアを標的に遺伝子改変ウイルスを用いた遺伝子導入を行い、軸索-ミクログリア相互作用における影響と情動変容における影響を調べる。以上の戦略により、本研究課題で見出した現象の分子機序並びに機能的意義を検討する。
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Causes of Carryover |
研究の実施に伴い必要な物品の輸入が、新型コロナ肺炎に関連する急激な社会情勢の変化のため大きな影響を受けた。そのため輸入時期が大きくずれ込み、研究計画の実施を次年度にまたぐ必要が出てきたことが理由である。次年度使用額の使用計画に関しては、当初の研究計画に準じて遂行する。
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Research Products
(4 results)