2018 Fiscal Year Research-status Report
がん悪液質における中枢性プリン代謝変化を標的とした新規治療法開発の基盤構築
Project/Area Number |
18K15037
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
宇津 美秋 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 特任研究員 (20802896)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | がん悪液質 / プリンヌクレオチド代謝 / グリア |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト胃がん細胞株85As2をBALB/cAJcl-nu/nu nudeマウス(♂、8週令)の皮下に移植することでがん悪液質モデルを作製し、6週間観察した。85As2移植2週間後より体重、摂餌量、飲水量の減少が認められた。この時、下肢腓腹筋および精巣周囲脂肪の重量低下も認められたことから、85As2移植2週間後を悪液質初期と定義し、悪液質初期の中枢性変化を解析した。 悪液質初期モデル前脳より水溶性低分子代謝物を抽出し、CE-TOFMSを用いて96種類の代謝物の量的変化を解析した。その結果、18種類の代謝物について有意な変化を認め、この内6種類はプリンヌクレオチド代謝に関連する代謝物であった。さらに、プリンヌクレオチド代謝酵素の一つであるキサンチンオキシダーゼの活性は、悪液質初期モデル前脳においてコントロールの1.5~2倍程度高かった。以上より、悪液質初期の前脳内ではプリンヌクレオチド代謝が亢進していることが示唆された。 前脳の中でも特に視床下部領域のグリア細胞が摂食制御に重要であることが報告されていることから、続いて悪液質初期モデルの視床下部領域におけるグリア細胞マーカーのタンパク質発現を確認した。この結果、コントロールと比較してマイクログリアマーカーIba-1の発現は1.2倍程度、アストロサイトマーカーGFAPは1.5倍程度増加した。よって悪液質初期の視床下部ではグリア細胞が活性化していることが示唆された。以上の結果を筆頭著者としてJournal of Pharmacological Sciencesに発表した(印刷中)。 また、がん悪液質における脳内プリン代謝変化がプリン受容体シグナルにも影響を及ぼしている可能性を考え、各種プリン受容体を発現するラットグリオーマ細胞株C6を85As2細胞培養上清中で培養しプリン受容体アゴニストを添加したところ、プリン受容体の応答性が増強した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初の計画では、1年目に悪液質における中枢変化の解析、2年目に薬物治療実験を行う予定であったが、1年目にキサンチンオキシダーゼ阻害薬フェブキソスタットによる治療実験を行うことができたため。フェブキソスタットを85As2移植2週間後から6週間後までの4週間飲水投与したところ、体重減少や摂餌量・飲水量低下といった悪液質症状は改善されなかった。フェブキソスタット(フェブリク錠)のインタビューフォームを参照すると、フェブキソスタットは中枢移行性が低いことから、中枢のキサンチンオキシダーゼを標的とするにはフェブキソスタットを中枢に直接投与する、あるいは中枢移行性の高いキサンチンオキシダーゼ阻害薬を使用する、といった変更が必要であると考えられる。そこでフェブキソスタットの中枢への直接投与をするために予備検討を進めたが、侵襲性が高く体重や摂餌量に影響する可能性が高いことがわかった。よって今後は中枢移行性の高いキサンチンオキシダーゼ阻害薬による治療実験を進めることが望ましいと考えるに至った。以上より、研究1年目で治療実験を始めることができたため、十分な情報収集や予備検討を行い今後の実験の方向性を明確に定めることができたことから、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はがん悪液質における中枢キサンチンオキシダーゼ阻害の有効性を評価することが重要であるが、中枢移行性の高いキサンチンオキシダーゼ阻害薬アロプリノールは腎毒性の懸念や特異性の低さが問題となる。よって中枢移行性が高く、且つオフターゲットの少ないキサンチンオキシダーゼ阻害薬を新規にスクリーニングした上で治療実験を行うことが重要であると考えられる。また、悪液質初期の前脳におけるプリンヌクレオチド代謝変化とグリア細胞活性化に関連があるのか明らかにするため、アストロサイトやマイクログリアの培養系に対し85As2細胞の培養上清を加えてGFAPやIba-1の発現やプリン代謝の変化を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究課題は国立がん研究センター研究所にて申請・採択された課題であるが、平成31年度4月より研究代表者が農業・食品産業技術総合研究機構に異動することが決まったため。異動前にそれまでの研究成果を論文発表することを優先し、当初の予定に比べ実験を控えたため次年度使用額が発生した。本費用は異動先にて新規の細胞培養実験系を立ち上げるための細胞株や細胞培養用試薬の購入に使用する予定である。
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Research Products
(16 results)
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[Presentation] 各種医療麻薬の鎮痛効果におけるオピオイド二量体受容体の役割~μ、κおよび新規作製μ/κ二量体受容体安定発現細胞を用いた比較解析~2018
Author(s)
大島佳織, 宮野加奈子, 石橋尚人, 大道容子, 藤井百合子, 真鍋星, 宇津美秋, 野中美希, 宮野加奈子, 藤井秀明, 吉澤一巳, 上園保仁.
Organizer
第12回日本緩和医療薬学会年会
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