2018 Fiscal Year Research-status Report
心臓ペースメーカー細胞の成熟および性質維持機構の解明
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18K15050
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
森田 唯加 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (50783685)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 心臓発生 / 心筋分化 / 心筋代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
<研究の目的> 本研究では、分化した洞房結節の細胞がどのようにしてペースメーカーとしての機能を維持し続けるのか、その生理学的メカニズムを明らかにするべく、洞房結節特有の代謝経路・物質の同定、洞房結節の幼若-成熟化の存在および機能維持メカニズムの解明を目的としている。 <研究成果> これまでに、MALDI-IMSを用いて代謝産物Zが生体マウスの洞房結節に特に多く局在することを見いだした。成体および新生仔Hcn4-GFPマウスを用いてGFP領域を採取し、RNA-seqおよびMS解析により比較解析を進める予定でいたが、生体マウスの洞房結節は 非常に細胞数が限られている上、他の細胞種の混在による正確な解析が困難と判断した。そこで、組織がわかりやすく比較的細胞数が得られると予想される固有心筋(心房筋、心室筋)における代謝比較を行い、特異な代謝経路を同定した上でどのようにして各心筋を特徴づけ、機能を維持し続けるのか研究を遂行した。 生体マウスを用いたMALDI-IMSおよびMS解析により心室筋はミトコンドリアによる酸化的リン酸化経路、心房筋はミトコンドリアに依存しない解糖系により依存した代謝を行うことが示唆された。生体では心筋の他に線維芽細胞が混在が懸念されることから、より正確な各心筋の代謝を解明し特異な代謝が生物種間で保存されているか明らかにするためヒトiPS細胞を用いて心房筋・心室筋分化を試みた。当研究室でこれまでに確立した誘導法ではほぼ心室筋であるため、心房筋誘導法の検討し誘導60日目の各誘導心筋をFACSおよび細胞染色を行った結果、既存の誘導法に比べて遥かに誘導効率が高く誘導した心筋の90%以上がMLC2A陽性の心房筋様の細胞であった。また、microarrayにより遺伝子発現解析を行った結果、既知の報告される遺伝子プロファイルと酷似していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで行われてきた心臓の代謝解析は外科的に組織を採取し解析を進める方法であり、組織の局在を失うことなく正確な代謝解析を行うことは困難であった。本研究はMALDI-IMSを用いることにより組織の局在を維持した状態でMS解析を行い、心室筋は酸化的リン酸化に依存し、心房筋は解糖系に依存していることを明らかにした。また、MS解析においても同様の結果が得られておりMALDI-IMSを用いた解析法が正確であることを証明した上、今後心臓のみならず他の臓器・組織の代謝解析に有用である事を示した。そして、マウス心臓を用いて得られた代謝解析の結果がヒト心筋においても保存されているのか明らかにするためにヒトiPS細胞から心房筋と心室筋をそれぞれ誘導することを試みた。高効率の心室筋誘導に関しては既に当研究室で確立されていたが、心房筋誘導に関しては既知の方法では効率が低いことが問題であり、それゆえ抗体を用いた心房筋のみの選別等が必要であることが考えられた。また、代謝は細胞の状態で大きく変動してしまうことから、抗体や色素を用いた選別後では正確な代謝解析は困難である。そこで、申請者は高効率の心房筋誘導法の確立を目指し検討を行った結果、非常に心房筋誘導効率の高い手法を見いだすことができ、これは次年度のiPS由来の心房筋・心室筋を用いた代謝解析において望ましい結果である。その上、心筋の誘導効率自体も低下していないことから、今後の代謝解析を滞り無く遂行することが可能である。 以上の理由により、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでに確立した心室筋誘導法と本研究で確立した心房筋誘導法を用いて各心筋を誘導し、実際にマウスと同様の代謝を行うのか明らかにするため、MS解析を行う。また、実際にどのような経路で代謝されているのか明らかにするためにグルコースの安定同位体を用いて代謝のトレーシングを行う。興味深いことに、本研究のMS解析により心房筋では最終産物の乳酸が心室筋に比べて多く蓄積されていた。この結果から、心房筋では解糖系を介して得られたピルビン酸を乳酸に変換し、一方で心室筋ではピルビン酸をアセチルCoAに変換、もしくは一度産生した乳酸をLactate Dehydrogenase Bによって再びピルビン酸に変換している可能性が示唆された。そこで乳酸の安定同位体を用いた代謝トレーシングも行い、乳酸がどのように代謝されているのか解明する。 代謝トレーシングに加えて、フラックスアナライザーを用いて主要な呼吸基質であるグルコース、脂肪酸、グルタミンの各々の利用率を解析し、各心筋でどのような代謝に依存してエネルギー(ATP)を産生しているのか明らかにする。 さらには、各心筋の特異な代謝が性質・機能の維持にどのように関わっているか明らかにするためにMS解析で得られる主要な代謝経路の産物を除去した培地を作製し、各細胞に曝露する。細胞の生存評価、遺伝子発現解析、細胞染色を行い、代謝が細胞に及ぼす影響を解析する。
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Causes of Carryover |
昨年度の研究結果の進展が見受けられた。研究をより促進させたいと考え共同研究者と協議した結果、予定して旅費計画分を本年度に解析系に補填させ、研究を推進させ結果を充実させる計画にした。 当初予定していた国際学会に参加し発表においては今年度に変更し旅費に計上した。研究結果もまとまりつつあるため、今年度は国際学会2つと国内学会2つに参加予定である。 物品費については、昨年度の研究進展が見受けられたため、申請書に予定していた遺伝子改変(HcN4-GFP)マウスを用いた研究を動物愛護精神に基づき再度精査し、研究進行内容を培養系に修正し簡便化・スリム化を目指した。そのためマウス管理にかかる費用や実験で使用する予定であったsiRNAや試薬の購入の予定が不要となり、当初本研究予算内では難しかった解析系を充実するため使用することにした。今年度は、フラックスアナライザーにかかる試薬やプレート、抗体、代謝阻害剤、サイトカイン、培養器具を購入し、迅速な結果を得る計画で進めている。
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