2020 Fiscal Year Research-status Report
虚血組織傷害後の炎症収束と組織修復におけるマクロファージと制御性T細胞の機能解明
Project/Area Number |
18K15129
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
駒井 恭子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (80574590)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 組織修復 / 心臓組織マクロファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は心臓における炎症亜急性期の組織修復性マクロファージおよび慢性期に浸潤する抑制性T細胞(Treg)の分化誘導機構を明らかにし、炎症の終息と組織修復の機序を解明するものであった。 実際には心筋虚血モデルではその個体差が大きく、結果の解析が困難なことが多かったため、現在は横行大動脈結紮(transverse aortic constriction;TAC)モデルを中心に解析を行っている。これまで、組織障害の炎症収束の過程で組織修復が起きると考えられてきた。しかしながら、組織のメンテナンスは常に行われており、その主役のひとつは心臓においてはLy6c lowマクロファージ(Ly6clowMac)である。Ly6clowMacは定常状態から心臓に存在し、TACモデルにおいては早期に増殖し、炎症に対して保護的に働くことが知られている。申請者もTAC早期のCD45陽性細胞をフローサイトメトリー(FCM)およびシングルセル RNAシークエンス(sc-RNAseq)で解析比較したところ、Ly6clowMacの増殖を確認した。T細胞を欠損するCD3eKOマウスの心臓においては、非TAC 時、TAC時ともWTに比べLy6clowMacが多くみられることが分かった。これまでの実験から、これは予想に反して主にCD8陽性T細胞(CD8+T)の欠損によることが示唆されている。また、Ly6clowMacが多いCD3eKOマウスにTACを行ったところ、早期の肥大の程度は進むものの、最終的な心不全は起こしにくいことが分かった。以上のことより、T細胞が存在しないと、常在するLy6clowMacが増え、TAC時にもその増殖がより大きく起きる。そのため圧負荷に対する早期の適応がより効率的に起こり、代償性の「よい肥大」がおきているため、心不全が増悪しないのではないかと考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
T細胞のうちどの分画が病態に重要であるかを特定していたが、当初のに予想に反しCD8分画が圧負荷時の心臓マクロファージの増加、引き続く心筋細胞の肥大に重要であることが分かってきた。CD8分画の心臓マクロファージへの影響を明らかにするため、時間がかかっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
①T細胞がいないとなぜLy6clowMacが増えるのか②Ly6clowMacが起こす肥大はどのような仕組みで心不全を改善するのか。これらを解明するために次項目の4つの検討を進めている。 (1)Ly6clowMacの違いによっておきる肥大の性質の違いの検討。CD3eKOマウスではIGF1、PDGFやAREGのソースであるLy6clowMacが増加し、成長因子による良性肥大がWTに比べ優位に起こっている可能性が推測された。そこで、Ly6clowMacが多いことによって起きる心筋細胞の肥大と通常の肥大の性質の違いについて詳しく検討するため、現在WTマウスCD3eKOマウスの心筋細胞をsc-RNAseqで解析している。 (2)肥大の性質の差を起こしている新規因子の特定。すでに実施したCD45陽性細胞のsc-RNAseqの結果を分析し、Ly6clowMacから分泌される新規因子を同定する。 (3)T細胞がいないとLy6clowMacが増加する理由の解明。CD45陽性細胞および心筋細胞のsc-RNAseqデータからどの細胞やどのようなパスウェイに影響が出るのかを考察することで、T細胞が存在しないことでCsf1などの発現が上がるメカニズムについて検討する。 (4)Ly6clowMacの増加を抑えているT細胞には心臓抗原特異性が必要なのか。CD3eKOマウスにWTのCD8+T細胞(WT-CD8+T)とOVAにしか反応しないT細胞受容体(TCR)をもったマウス(OT1マウス)から分離したCD8+T(OT1-CD8+T)細胞を移入した。OT1-CD8+T移入に比べWT-CD8+T移入では心筋のLy6clowMacが減少し心臓の肥大も抑制された。このことからCD8+T細胞は何らかの抗原を認識してLy6clowMacの増殖を抑制していることが示唆された。今後、一細胞TCR解析を行いその認識抗原を検討する。
|