2018 Fiscal Year Research-status Report
がん微小環境を制御する新規自己由来免疫調節分子の同定
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18K15179
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
半谷 匠 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (50785350)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | がん微小環境 / MDSCs |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に基づき、新規自己由来免疫調節分子(以降分子Xとする)が、がん微小環境(Tumor microenvironment; TME)を制御し、がんの増殖を促進するメカニズムの解析を行った。 まず、この分子Xが実際に骨髄由来免疫抑制細胞(Myeloid derived suppressor cells;MDSCs)の動員を介して腫瘍の促進をするか否か確認した。この分子Xを欠損したマウス大腸癌細胞株であるSL4細胞をマウスに皮下移植すると、野生型SL4細胞と比較し、腫瘍の増殖遅延が起こる。このマウスに対しMDSCsの養子移入を行うと、腫瘍の増殖遅延が一部解除された。したがってこの分子Xは実際にMDSCsの動員を介して腫瘍の増殖促進を行っていると考えられた。次にMDSCsの動員メカニズムの解析を行った。この分子Xの遺伝子組み換え体がMDSCsの遊走を直接促進するか、migration assayを用いて検討したところ、migrationの亢進は認められなかった。次に、この分子XがTMEを構成するMDSCs以外の細胞に作用し、ケモカインなどの遺伝子誘導を介してMDSCsの遊走を促進する可能性について検討した。興味深いことに、この分子Xの遺伝子組み換え体をマウス腹腔マクロファージに添加すると、MDSCsの遊走を促進する代表的なケモカインである、Cxcl1遺伝子の顕著な誘導が見られた。さらに、このCxcl1誘導がどの受容体と介して起こるか、種々の自然免疫受容体欠損マウス由来の細胞を用いて検討したところ、Toll-like receptor 2 (TLR2)欠損マウス由来の腹腔マクロファージではCxcl1誘導が消失することが分かった。したがって、この分子XはTLR2を介してマクロファージに対しCxcl1の誘導を行い、TMEへのMDSCsの動員を促進していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子Xが、がん微小環境(TME)を制御して腫瘍増殖を促進するメカニズムに関し、以下の解析を行った。(1)この分子XがMDSCsの動員を介して腫瘍増殖を促進しているか否か(2)この分子XによるMDSCs動員の分子メカニズムの解析。上記いずれに関しても、研究実施計画に基づき、解析を行い、それぞれ、この分子Xが(1)MDSCsの動員を介して腫瘍増殖を促進していること、(2)TLR2依存的にマクロファージにCxcl1遺伝子の誘導を行い、これがMDSCsの遊走を促していること、という結果を得ることが出来た。また、この分子Xに対する中和抗体の作製を行うべく、ペプチドの合成を行い、マウスへの免疫を開始している。したがって、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
新規自己由来免疫調節分子(分子X)が、がん微小環境(TME)を制御して腫瘍増殖を促進するメカニズムに関し、前年度に得られた知見を確固としたものにし、かつこの分子Xを標的とした治療法の開発を進める。具体的には、SL4細胞で認められた結果、即ちこの分子Xの遺伝子欠損細胞の増殖遅延や、腫瘍内のMDSCsが減少するという現象が他の癌腫においても同様に認められるかどうか検討する。また、この分子Xの遺伝子組み換え体のマクロファージに対する作用に関し、RNA-seqやマクロアレイによる網羅的な検討を行い、Cxcl1以外にどのような遺伝子の誘導を行うか、遺伝子誘導の全体像を俯瞰する。さらに、この分子XによるCxcl1誘導がin vitroのみならずin vivoで起こっているかどうか検討するため、この分子Xの遺伝子欠損SL4細胞あるいは野生型SL4細胞からなる腫瘍をマウスより摘出し、腫瘍内のCXCL1タンパク濃度を測定する。またこれら細胞株で得られた知見が、よりヒトの病態生理に近い状況でも認められるか否か検討する。具体的にはマウス自然発癌モデル(Genetically Engineered. Mouse Model;GEMM)を用い、この分子Xを欠損させた場合に、がんの進展、微小環境にどのような影響が認めらるか、検討する。この分子Xに対する中和抗体の作製に関しては、遺伝子組み換え体によるマクロファージに対するCxcl1遺伝子誘導の中和活性を指標とし、スクリーニングを行う。
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