2018 Fiscal Year Research-status Report
リンパ球初期分化を制御する新規転写後制御機構の解明
Project/Area Number |
18K15185
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
植畑 拓也 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (50785970)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | リンパ球初期分化 / 転写後制御 / mRNA分解 / RNA結合タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究において、CCCH型ジンクフィンガータンパク質であるRegnase-1(Reg1)がヌクレアーゼとして機能し、mRNA安定性を制御していることを明らかにしてきた。本研究において、Reg1とそのファミリー遺伝子であるRegnase-3(Reg3)が骨髄におけるリンパ球初期分化において重要な役割を果たしていることを見出だした。しかしながら、これら2つのRegnaseタンパク質がどのようにしてリンパ球分化を促進しているのか明らかではない。 平成30年度では、Reg1及びReg3によるリンパ球分化制御機構及びその意義について検討した。まず、Reg1/Reg3二重欠損によって引き起こされるlymphoid-primed multipotent progenitor (LMPP)の減少の原因を探るためRNAシークエンス解析を行った。この結果、野生型に対してReg1/Reg3二重欠損細胞では、ミエロイド系細胞に特徴的な遺伝子群の上昇、一方でリンパ球系細胞に特徴的な遺伝子群の低下が認められた。このことは、Reg1とReg3がリンパ球分化を阻害するようなmRNAを分解することにより、正常なリンパ球分化を促していることを示唆している。次に、個体におけるReg1/Reg3によるリンパ球分化制御機構の意義を検討した。Reg1/Reg3二重欠損マウスで観察される表現型は、emergency myelopoiesisで認められる骨髄環境の変化を想起させる。興味深いことに、LMPPにおけるRegnase-1発現量はLPS投与後に著しく低下していることが明らかとなった。以上より、Reg1/Reg3はリンパ球系分化に有利なトランスクリプトームバイアスの調整に重要であり、細菌感染などによって引き起こされるemergency myelopoiesisを制御する分子機構に寄与することを示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の研究成果により、Reg1とReg3によるリンパ球分化制御機構の生物学的意義が明らかになりつつある状況である。細胞運命が決定していない血球分化の初期段階においては、遺伝子発現にバイアスが存在しており、これがその後の血球分化に大きく影響を与えることが知られているが、Reg1とReg3がリンパ球系前駆細胞においてこのトランスクリプトームバイアスを制御する重要因子であることを網羅的遺伝子発現解析により明らかにした。さらに、in vivoにおけるReg1タンパク質の発現を捉えるため、3xFlagをRegnase-1遺伝子座に挿入したマウスを作製し、これにより細菌感染によって起こる自然免疫細胞の需要増加には、Reg1の発現低下が重要であり、リンパ球系からミエロイド系への血球産生のシフトに影響を与えていることを明らかにした。実験計画にも示すように、さらに詳細な表現型解析のためマウスを準備中であり、平成31年度中にも解析可能となる。また、表現型を裏付ける分子機構についても現在進行中である。具体的には、Reg1やReg3にそれぞれタグをノックインしたマウスを利用し、これらを用いてマウス初代細胞における標的mRNAの網羅的解析を行うことが現時点で可能となっている。一方で、1細胞レベルでの遺伝子発現解析を野生型とReg1/Reg3欠損マウスを用いて行ったが、表現型が描出されるべき目的の細胞集団の細胞数が少ないことなどから、実験方法を改めて再考し行う必要がある。これに関しては、標的となる細胞集団を限定し、より多くの細胞数を解析することにより、改善されることが予想される。 以上のことから、平成30年度の進捗状況としては順調に進展しており、これにもとづき、平成31年度に行うべき実験計画にむけて整備・実行されつつある状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、Reg1とReg3によるリンパ球分化制御機構に関して詳細な分子機構の解明を行う。また、骨髄でのReg1/Reg3の役割をトランスクリプトームバイアスの観点からより詳細に解析を行う。 分子機構の解明に関しては、これまでにすでにReg1とReg3に関してHEK293細胞を用いたCLIP-seqによりRNA結合モチーフ解析結果をすでに得ている。しかし、骨髄リンパ系前駆細胞における、Regタンパク質の標的mRNAの全体像は明らかではない。このため、マウス骨髄細胞に由来するリンパ球前駆細胞株を樹立することにより、Reg1とReg3による標的mRNAを網羅的に解析する予定である。現在Reg1とReg3にそれぞれタグを挿入したノックインマウスを得ており、これにより骨髄細胞からリンパ球系前駆細胞株を樹立し、Reg1とReg3の標的mRNAをCLIP-seq法により網羅的に同定する。またReg3に関しては、これまで技術的な問題により未解明な部分が多く残っており、タグをノックインしたReg3マウスを用いてmRNA分解機構も明らかにしていく。 一方で、Reg1及びReg3が制御するトランスクリプトームバイアスについて、野生型及びReg1/Reg3二重欠損マウスを用いて1細胞レベルでのRNAシークエンス法を多能性前駆細胞に対して行うことにより、どの段階でどのような遺伝子群がReg1/Reg3の標的対象となっているのかを明らかにする。さらに、このようにして得られた結果に対して、in vitro及びin vivoの実験系により様々な角度から検証を行い、トランスクリプトームバイアスのコントロールにおけるReg1とReg3の重要性を明らかにしていく。
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