2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K15216
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
刈谷 龍昇 熊本大学, エイズ学研究センター, 特任助教 (40757663)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マウスモデル / 抗がん剤 / 非臨床試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、がん患者の病態を忠実に再現したマウスモデルを樹立する事で、適切な抗がん剤の評価系の確立に供するものである。現在、多くの抗がん剤の効果検討には、ヒトがん細胞株を免疫不全マウスに移植した、細胞株移植モデルが用いられている。しかし、がん細胞株は実際のがん患者のがん細胞と性質がかけ離れており、細胞株移植モデルはヒト臨床像を正確に模倣した動物モデルではない。近年、がん患者の腫瘍組織を直接免疫不全マウスに移植したモデルである患者腫瘍組織移植モデル(Patient derived xenograft model: PDX model)が、がん患者の病態を忠実に再現したモデルであると注目されている。しかし腫瘍によって樹立成功率が低く、細胞株移植モデルに比べ難しい技術である。我々は独自で開発した超免疫不全マウスを用い、患者腫瘍組織移植モデルの効率的な作製法の検討を行った。 平成30年度は、口腔がん、GIST(消化管間質腫瘍)、胃がん、食道がん、すい臓がんのPDXモデルの作製を行った。外科手術で摘出された腫瘍組織が小さかったため、本年度は移植場所の検討は行わず、腫瘍組織の移植前処理が移植効率に影響するか否かを検討した。胃がんやすい臓がん、口腔がんなどの固形腫瘍の場合、腫瘍組織中に含まれる細胞外基質が腫瘍細胞への血管新生を阻害し、移植片内部のがん細胞の壊死を誘導してしまう可能性がある。したがって移植片中の細胞外基質をピンセットにより物理的な破壊することで移植成功率が上昇すると考えられたが、腫瘍組織の物理的破壊を行うか否かで、PDXモデル樹立に有意な差は見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は、口腔がん13症例、GIST(消化管間質腫瘍)15症例、胃がん2症例、食道がん1症例、すい臓がん1症例のPDXモデルの作製を行った。当初の計画では、外科手術で摘出された腫瘍組織をマウスに移植する際に、①腫瘍組織の移植場所、②腫瘍組織の移植前処理、の2つがPDXモデル樹立に影響を与えるか否かを検討する予定であった。しかし、外科手術で摘出された腫瘍組織が上記2つの可能性を検討するには小さ過ぎたため、平成30年度は移植場所の検討は行わず、腫瘍組織の移植前処理が移植効率に影響するか否かを検討した。具体的には移植片中の細胞外基質をピンセットにより物理的な破壊することで移植成功率が上昇するか否かを検討したが、有意な差は見られなかった。また、上記のPDXモデル樹立実験によりGISTに関しては1症例も樹立することが出来なかったが、口腔がん7症例、胃がん1症例、食道がん1症例、すい臓がん1症例のPDXモデルの樹立には成功している。これにより、上記の症例の患者腫瘍組織の腫瘍サンプル数を増やすことに成功しており、増やした患者腫瘍組織を用いて、令和元年度は、今回行う事の出来なかった、腫瘍組織の移植場所の違いによるPDX樹立成功率の差異を比較する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
①消化器系腫瘍を中心に、PDXモデルの作製を進める。外科手術で比較的大きな腫瘍組織が摘出された場合は、腫瘍組織の移植場所、腫瘍組織の移植前処理の2つがPDXモデル樹立成功率に影響を与えるか否かを検討する。 ②平成30年度にいくつかの腫瘍に対しPDXモデルの樹立に成功しているため、患者腫瘍組織のサンプル数の増大が完了している。この腫瘍組織を免疫不全マウスに移植し、次世代のPDXモデルを作製する際に、腫瘍組織の移植場所、腫瘍組織の移植前処理の2つがPDXモデル樹立成功率に影響を与えるか否かを検討する。 ③抗がん剤のスクリーニングを、いきなりPDXモデルマウスから始めるのは非常にコストがかかる。したがってPDXモデルマウスから腫瘍細胞株を作製する事は非常に重要な事である。したがって今後は、すでに樹立したPDXモデル由来の腫瘍細胞をin vitroで培養し、PDXモデル由来の細胞株の樹立を行う。このことにより、抗がん剤のスクリーニングを比較的安価なPDX由来の細胞株で行い、効果のあった抗がん剤のみをPDXモデルマウスを用いた非臨床試験に進めることが可能となる。
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Causes of Carryover |
外科手術により採取できた腫瘍組織が想定より小さかったため、必要な超免疫不全マウスの匹数が少なくて済み、飼育コストが当初の予定を下回った。また、移植に用いる超免疫不全マウスは、体外受精を用いた方法ではなく、研究室で日常的に自然繁殖している超免疫不全マウスで賄えたため、マウスの生産コストの削減も可能であった。令和元年度は、平成30年度に増大させたPDX腫瘍組織を用いて実験を行うため、必要なマウスの匹数も増える。必要なマウスは体外受精を用いて積極的に生産していくため、生産コストもかさむ。これらに、今年度から繰り越した助成金を使用する予定である。また、得られた結果の学会発表や論文作成にも使用する予定である。
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