2018 Fiscal Year Research-status Report
tRNA修飾酵素群が創出する癌の不均一性の分子機構解明とそれに基づく治療戦略構築
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18K15241
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
藤村 篤史 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (10771082)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | tRNA修飾酵素 / 悪性脳腫瘍 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、がんの不均一性の本態を「転写と翻訳の乖離に起因する現象」と捉えることで、主に悪性脳腫瘍の複雑な病態の解明に専念している。我々は、翻訳を司る根幹として、tRNAが最も重要な因子の一つであると位置付けて、特にtRNA修飾様式と悪性脳腫瘍の病態との関連を解析している。一連の解析の結果、我々は特定のtRNA修飾酵素(酵素X)が、悪性脳腫瘍のがん幹細胞性を調節することで、悪性脳腫瘍の不均一性を制御していることを明らかにした。酵素Xは、腫瘍細胞のなかでも特にがん幹細胞性の高い細胞集団で強く発現しており、酵素XをshRNAを用いてノックダウンすることで幹細胞性の著しい脱落が観察された。ほかに、酵素XによるtRNAの修飾は、低酸素環境など腫瘍細胞の周囲の微小環境に大いに左右されることも明らかとなった。非常に興味深い点として、酵素Xは、腫瘍幹細胞の特異な代謝経路によって蓄積する毒性物質を解毒させる方向に機能することがわかった。このことは、酵素XがtRNA修飾酵素としての従来の役割とは全く異なる様式で、悪性腫瘍の増悪させていることを明らかにした点で、極めて重要な発見と言える。さらに、酵素Xに構造上類似したアミノ酸一次構造を有するtRNA修飾酵素(酵素Y)についても、悪性脳腫瘍の幹細胞性を司る重要な因子の一つであることを突き止めた。これらの知見は、当初の研究計画書に基づき追加で立案された実験によって得られたものであり、今後同様の手順で他のtRNA修飾酵素についても、既知の作用とは異なる様式で、悪性脳腫瘍の病態に関与していることが明らかになると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
悪性脳腫瘍の病態を制御するtRNA修飾酵素を2種類同定しており、それらの生化学的・病態生理学的な役割についても数多くの知見が得られているため、当初の研究計画以上に進展していると考える。今回同定したtRNA修飾酵素はいずれも悪性腫瘍との関連が知られておらず、また、解明した生化学的な特徴についても、これまで全く知られていなかった新しい様式で悪性脳腫瘍の幹細胞性を制御することから、広くがん生物学において重要な知見をもたらすことが可能になると思われる。2019年度も、同様の手法を用いて、他のtRNA修飾酵素に関して悪性脳腫瘍の病態との関連を考察していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、本研究計画は当初の予定以上の成果を出せていると考える。そこで2019年度は、2018年度と同様の手法を用いて、他のtRNA修飾酵素に関しても網羅的な解析を行いたい。これにより、悪性脳腫瘍の病態とtRNA修飾およびそれに起因する翻訳の不均一性との関連が一般化できるようになるかも知れない。今後は、本研究計画で明らかにした知見を拡張することで、がん生物学において重要になりつつある「転写と翻訳の乖離に起因する不均一性」についての学問領域を確立したいと考えている。また、同定したtRNA修飾酵素が創薬標的として優れたものであるとわかれば、それに基づいた創薬基盤を確立することで、新たな制癌戦略の構築に寄与したいと切望している。
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Causes of Carryover |
所属機関の会計事務の手続きのミスにより次年度使用額が14,621円生じたため、次年度に細胞培養に要する消耗品(ピペット)を購入する予定である。
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Research Products
(2 results)