2018 Fiscal Year Research-status Report
がん細胞が細胞老化様の形質を獲得し、悪性化する分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
18K15254
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
宮田 憲一 公益財団法人がん研究会, がん研究所 細胞老化プロジェクト, 研究員 (20816938)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 細胞老化 / SASP / がん転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞老化は、正常な細胞にがん遺伝子の活性化や酸化的ストレス等の修復不可能なほど大きな遺伝子損傷ストレス(DDR; DNA Damage Response)が生じると誘導され、p53やp16に依存した不可逆的な細胞周期停止を引き起こすがん抑制機構の一つとして知られている。その一方で、老化した細胞(老化細胞)は、死滅せずに生体内に留まることで、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1α)やケモカイン(CXCL8、GROα)、細胞外マトリックス分解酵素(MMP-2)等を細胞外へ分泌し、周囲の組織に発がんを促進する炎症反応を引き起こすことが知られている。非常に興味深いことに、近年、悪性度の高い大腸がん等の腫瘍組織内では、細胞老化で見られるようなSASP様遺伝子群の発現が亢進しているがん細胞が存在し、これらのがん細胞は高い転移能を有していることが示唆されている。しかし、なぜがん細胞が老化細胞と酷似した遺伝子発現プロファイルを呈し、悪性形質を獲得するのか?その遺伝子発現制御機構は未だ明らかになっていない。がん細胞の浸潤・転移はがんによる死亡率を規定する主因であり、がんの治療を困難にしていることから、その制御法の開発は喫緊の課題とされている。そこで本研究では、がん細胞においてSASP様遺伝子群を発現するようになる分子メカニズムとそのがん転移への関与を解明することで、がん転移に対する新たな制御法を開発することを目的としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、がん細胞が悪性化の過程で老化細胞様の遺伝子発現プロファイルを獲得してしまう分子メカニズムを明らかにする。そのために本年度は研究計画通り、様々ながん遺伝子を累積的に蓄積した大腸がん腸管オルガノイドを用いて、SASP遺伝子群の発現レベルをRT-qPCR法等で解析し、がん遺伝子の活性化とSASP様遺伝子群の発現との関連性を解析した。その結果、がん関連遺伝子Xの活性化により、SASP遺伝子群の発現が上昇し、逆に遺伝子Xをノックダウンすることで、SASP遺伝子群の発現が抑制させる傾向があることを見出した。以上より、本研究は概ね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞老化様の形質を獲得したオルガノイド等を用いて、がん関連遺伝子Xの活性化によるSASP様遺伝子群の発現制御機構を明らかにする。さらに、SASP様遺伝子群の発現制御ががん細胞の浸潤・転移へ与える影響を明らかに、がん転移の新しい治療戦略へ繋げることを目指す。
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