2018 Fiscal Year Research-status Report
大腸癌の治療感受性を予測する新規バイオマーカーの探索
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18K15263
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大内 康太 東北大学, 大学病院, 助教 (50781291)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 大腸癌 / 遺伝子発現 / DNAメチル化 / バイオマーカー / 抗EGFR抗体薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で取得した、RAS野生型で抗EGFR抗体薬による治療歴を有する進行再発大腸癌の手術検体86サンプルの網羅的遺伝子発現データを用いて、高メチル化群と低メチル化群の2群間で有意に遺伝子発現状態が異なる遺伝子を抽出した結果、113の遺伝子が候補として抽出された。それらの遺伝子についてPathway解析を行ったところ、Wnt pathwayに関わる遺伝子群が含まれており、新規バイオマーカーの候補となり得ると考えられた。一方で、プロモーター領域のメチル化によって遺伝子発現状態が変化している遺伝子群を抽出するため、上記86サンプルの網羅的DNAメチル化解析データ及び網羅的遺伝子発現データを用いて、プロモーター領域のメチル化状態と遺伝子発現レベルが相関する遺伝子を探索したが、有意な相関を示す遺伝子は抽出されなかった。従って、抽出された113の遺伝子発現状態が、高メチル化群と低メチル化群とで異なる理由がプロモーター領域のメチル化状態の差であることが検証されなかったため、さらなる検討が必要であると考えられた。その一貫として、上記サンプルの遺伝子変異データと遺伝子発現状態との関連についても検討を行ったが、現状で有意な解析結果は得られていない。 上記研究と並行して、臨床研究で収集した、KRAS野生型で抗EGFR抗体薬による治療歴を有する進行再発大腸癌の手術検体約 50サンプルを用いてマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析データを新規に取得した。解析対象の全症例において、抗EGFR抗体薬を用いた治療成績に関するデータ(奏効率や生存期間)を併せて収集した。本データは、来年度に実施予定の追加の50 サンプル分のデータとあわせて、上記研究で抽出された遺伝子発現状態と抗EGFR抗体薬との治療効果の相関を検証するために使用する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画においては、初年度の解析によって、DNAメチル状態と相関して遺伝子発現状態が変化している遺伝子を抽出し、そのなかで抗EGFR抗体薬の治療効果と相関する遺伝子群を抽出することで新規バイオマーカーの候補とする予定であった。 これは、本研究の着想にいたった基礎研究において、大腸癌はゲノムワイドに高度にメチル化を認める高メチル化群と、メチル化頻度の低い低メチル化群に分類されることが示され、高メチル化群は低メチル化群に比べて抗EGFR抗体薬に抵抗性であることが示された、すなわち、高メチル化群において特異的に生じた遺伝子プロモーター領域のメチル化が当該遺伝子の発現状態を変化させることで、抗EGFR抗体薬の治療感受性が異なるという仮説に基づいた計画である。 しかしながら、現状では高メチル化群と低メチル化群とで発現状態に差のある遺伝子群は抽出されたものの、プロモーター領域のメチル化状態と発現状態とが有意に相関する遺伝子の絞り込みには至っておらず、具体的な候補遺伝子の決定ができていないため、やや遅れていると判断した。 一方では、検証用データセットの遺伝子発現データ及び臨床情報の取得は予定通りに行われており、また今後の研究の推進方策に記載の通り、候補遺伝子を抽出するための異なるアプローチも予定しているため、来年度の研究によって予定していた進捗を得られるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の解析において、DNAメチル化状態と遺伝子発現状態が有意に相関する遺伝子群を抽出できなかった要因としては、DNAメチル化の解析対象を、遺伝子プロモーター領域のみに絞ったためであると考えられた。 本研究と並行して当研究室では、高メチル化大腸癌と低メチル化大腸癌のそれぞれを特徴付ける分子生物学的要因の探索を行っており、その一貫としてより詳細に両群間でのDNAメチル化状態の違いを明らかにする解析に取り組んでいる。現状で得られている傾向として、DNAメチル化領域をCpG island、shore、shelfに区分して各領域毎の2群間での差を調べると、CpG islandのメチル化レベルは高メチル化群と低メチル化群とで大きな差を認めないのに対し、CpG shore及びshelfではより高い割合でメチル化状態が変化していることが明らかとなった。従って、高メチル化群と低メチル化群のメチル化状態の差は主にCpG shore及びshelfにおいて生じている可能性がある。この領域のメチル化状態と、遺伝子発現状態との変化に着目することで、当初目標としていた、DNAメチル状態と相関して遺伝子発現状態が変化し、かつ抗EGFR抗体薬の治療効果と相関する遺伝子群を抽出することが可能となると考えられた。 今年度は上記アプローチで候補遺伝子の絞り込みを行うと共に、抗EGFR抗体薬による治療歴を有する進行再発大腸癌の手術検体約 50サンプルのデータを追加で取得する。これを前年度に取得した 50サンプル分のデータと併せた合計 100サンプルの検証データセットを用いて、抽出された候補遺伝子と抗EGFR抗体薬との治療効果との相関を検証する。 上記で得られた新規バイオマーカーの候補遺伝子群の発現量について、将来的には臨床検査機器によるより簡便、安価かつ精度の高い測定系の確立へつなげることで、臨床応用を目指す。
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Causes of Carryover |
研究実績報告に記載したとおり、候補遺伝子の抽出に時間を要したため、新規に網羅的遺伝子発現データの取得を行った検体数が予定数に満たなかったため、次年度使用額が生じた。また、今年度は学会発表等による旅費の使用が生じなかった。 次年度使用額については、予定していた網羅的遺伝子発現データ取得に必要な消耗品費にあてるとともに、成果発表のための出張旅費や論文投稿料に使用する予定である。
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