2019 Fiscal Year Research-status Report
CRISPR/Cas9によるHSVtk導入iPS細胞を用いたグリオーマ遺伝子治療
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18K15289
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
森本 佑紀奈 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (10793119)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 悪性神経膠腫 / iPS細胞 / 神経幹細胞 / 自殺遺伝子 / バイスタンダー効果 / HSVtk / ゲノム編集 / CRISPR/Cas9 |
Outline of Annual Research Achievements |
悪性神経膠腫(グリオーマ)は、難治性の脳腫瘍であり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた集学的治療を行っても、全生存期間の有意な延長は得られていない。脳腫瘍幹細胞の存在により、強い浸潤性および治療抵抗性を示すことがその一因である。自殺遺伝子療法は、bystander効果により広範に脳腫瘍幹細胞を死滅させる可能性があるが、申請者らはさらに治療効果を高めるため、脳腫瘍幹細胞へ遊走・指向性を示すinduced pluripotent stem cell (iPS細胞)由来の神経幹細胞(NSC)に自殺遺伝子を導入する新規治療法を開発し、ヒトグリオーマモデルマウスに対して著明な治療効果を証明した。しかし自殺遺伝子のヒトiPS細胞に対する細胞毒性から、恒常的な遺伝子発現が困難であることも明らかになった。臨床応用に際して、iPS細胞への遺伝子導入及び恒常的な遺伝子発現は達成しなければならない命題である。そこで、本研究ではまず①自殺遺伝子による細胞毒性を克服するために、iPS細胞のメタボローム代謝解析を行う(済)。次に、ウイルスベクターによるランダムな挿入部位の結果生じる遺伝子の不活性化を避けるため、②CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、ハウスキーピング遺伝子領域等に自殺遺伝子を挿入したiPS細胞を樹立し、 NSCへ分化させ遺伝子を恒常的に安定して発現する治療用NSCを確立し、③グリオーマ細胞根絶のためにbystander効果を増強させることを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、メタボローム解析により、HSVtkがヒトiPS細胞に細胞毒性を有し、さらにサイレンシングにより恒常的な遺伝子発現が困難であることを明らかにし、その問題をTet-inducible systemを用いて解決した。その結果、ヒトグリオーマモデルマウスU87に対して、有意な生存期間の延長を示すことに成功した。以上の結果を本年度、論文報告することができた。しかし、ウイルスベクターでの遺伝子導入では染色体にランダムに挿入されるため、挿入部位の遺伝子変異や周辺遺伝子の活性化、位置効果による自殺遺伝子の不活性化が考えられるため臨床応用に際し懸念された。そこで昨年度は、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、ハウスキーピング遺伝子やセーフ・ハーバー領域等に自殺遺伝子HSVtkを挿入したiPS細胞を作製した。しかしやはりiPS細胞からEB形成を行う際に、明らかに細胞毒性及び遺伝子のサイレンシングが生じ、神経幹細胞(NSC)に誘導させるまでに恒常的な遺伝子発現を実現させることができなかった。そこで、本年度はTet-inducible HSVtkをCRISPR/Cas9でハウスキーピング遺伝子やセーフ・ハーバー領域等に挿入することで、上記ウイルスベクターの問題を解決したNSCの作製を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
Tet-inducible HSVtkを、ハウスキーピング遺伝子領域およびセーフ・ハーバー領域にCRISPR/Cas9でiPS細胞に遺伝子導入し、ドキシサイクリン非投与下でNSCに誘導させる。そしてグリオーマモデルマウスU87に移植後、ドキシサイクリンを投与することで、マウス生体内で遺伝子発現させ、可及的速やかにプロドラッグを投与し抗腫瘍効果を発揮させる。こうすることで、細胞毒性やサイレンシングの問題を最小とし、またウイルスベクターによる挿入部位の遺伝子変異や周辺遺伝子の活性化の問題も解決し安全性も担保されることとなる。U87モデルマウスで生存期間の延長に成功した際は、びまん性浸潤をきたすヒトグリオーマ幹細胞株hG008モデルマウスにも同様に投与し、治療効果を評価する。本研究課題により、ウイルスベクターとゲノム編集技術による遺伝子導入に関して多くの利点・欠点を比較することにもできる。
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Causes of Carryover |
効果的に物品調達を行った結果であり、さらに、昨年度は細胞の増殖に難が生じ、動物実験を予定より縮小したためである、次年度の研究費と合わせて試薬・消耗品などの購入に充てる予定である。 次年度は、より細胞培養、及び動物実験を行っていくため、まず幹細胞培養関連試薬、幹細胞用低接着フラスコを購入する予定である。また細胞樹立後は、in vivo解析に重点を置くため、動物購入・飼育費に費用がかかる。また本治療計画はヒト細胞を用いるため、動物は最低でもBALB/C由来のNude mouseである必要があり、場合によってはNOD/SCID mouseも購入する可能性がある。以上含め、その他、培養関連試薬、組織解析の関連試薬を中心に購入予定である。
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