2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K15317
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
一瀬 大志 京都大学, 生命科学研究科, 特定研究員 (70815745)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | NK細胞 / 腫瘍免疫 / 生体イメージング / 肺転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ナチュラルキラー細胞 (NK細胞) ががん細胞を殺傷する際に活性化が認められるERKについて、活性化メカニズムの解明と生体内でがん細胞を殺傷する際のERK活性の動態を解明することを目的としている。 本年度はまず、ERKの活性化メカニズムの解明を行うべくERKバイオセンサーを発現するマウスから単離したNK細胞を様々な受容体の発現によって分画し、分画したNK細胞ががん細胞を殺傷する際のERK活性を観察した。その結果、活性化受容体DNAM-1がERK活性化と最も良く相関することが判明した。がん細胞においてDNAM-1のリガンドであるCD112とCD155をノックアウトした細胞株を用いた実験から、DNAM-1がERKの活性化に必要であることを見出した。 次に、生体内でNK細胞ががん細胞を殺傷する現象を捉えるための生体イメージングの系の確立を行った。まず、NK細胞依存的ながん細胞の殺傷がいつ起こっているのかを同定するために、発光イメージングを用いた。その結果、血行性肺転移モデルにおいて、NK細胞依存的ながん細胞の排除が最も高率に起こるタイムウインドウを決定した。そのタイムウインドウにおいて、二光子顕微鏡を用いた肺の生体イメージングを行ったところ、NK細胞によるがん細胞への攻撃をカルシウムバイオセンサーによって検出した。また、カスパーゼバイオセンサーを導入したがん細胞を用いたイメージングにより、NK細胞ががん細胞を直接殺傷していることを明らかにした。 今後は、ERK活性化の機能の解明を進めるとともに、本年度で確立したNK細胞の生体イメージング法によって生体内での殺傷効率の検討及び、ERK活性化動態の解明を行う予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進んでいる理由として、本研究に高感度発光イメージングを導入したことが大きい。NK細胞ががんの転移を抑制することは古くから知られていたが、細胞の排除に最も寄与している時間に関しては、生体内の微量ながん細胞を検出する技術がなかったため不明であった。高感度発光イメージングを用いることにより、NK細胞ががん細胞を排除するタイムウインドウの同定が実現し、そのタイムウインドウの生体イメージングを行うことで、NK細胞ががん細胞を殺傷する様子を効率良く捉えることに成功した。この実験系を確立したことで、生体内におけるNK細胞のがん細胞殺傷効率の解明や、NK細胞におけるERK活性動態の解析を効率良く行えるようになった。今後は生体イメージングデータの蓄積と、そのデータを用いた生体内ERK活性化動態の解析を行う予定である。 また、光遺伝学を用いたERK活性化の機能解明を行うためのツールも開発済みであり、NK細胞へ光照射することでERKの活性化を人為的に操作する系を確立した。今後は本実験系を用いて、ERK活性化がNK細胞にもたらす影響を分子生物学的手法を用いて解析を行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた成果として、NK細胞ががん細胞に接着した際、DNAM-1依存的にERK活性化が誘導されることが見出した。ERK活性化の意義を解明するためにMEKの阻害剤を添加したところ、NK細胞の殺傷能が顕著に減少した。ライブセルイメージングにより詳細に解析を行ったところ、NK細胞とがん細胞の接着が阻害されていることを見出した。このことから、ERKの活性化はがん細胞との安定的な接着を誘導するために必要であることが示唆された。この点に関して、ERKを活性化させる光遺伝学ツールをもちいて検討を行っていく予定である。 また、NK細胞が生体内でがん細胞を殺傷する機構を解明するための生体イメージング方の確立を行った。NK細胞によるがん細胞への攻撃はカルシウムバイオセンサーが検出できること、細胞死の誘導はカスパーゼバイオセンサーが検出できることを確認した。今後の方針として、生体内におけるNK細胞のがん細胞殺傷効率を明らかにするために、NK細胞におけるERKの活性化を検出する系を確立する。NK細胞特異的にERKバイオセンサーを発現するマウスは作製済みであり、NK細胞でのERK活性化動態を生体内で検出する準備はできている。今後、ERKの活性化をNK細胞によるがん細胞認識の指標として、がん細胞を認識する効率やがん細胞を殺傷する効率などの解析を行っていく予定である。
|
Causes of Carryover |
次年度利用が生じた理由としては、前年度は生体内でナチュラルキラー細胞ががん細胞を殺傷する様子を可視化するための生体イメージング手法の確立のための条件検討を行ったため、マウスに投与する試薬などの購入費が予定よりも少なかったことが挙げられる。 今年度は前年度に確立したマウスの生体イメージングの実験を精力的に行う予定であり、それに付随したマウスの購入、マウス投与試薬等の購入を計画している。したがって、今年度は培養試薬及び抗体に40万円、マウス購入費に20万円、マウス投与試薬として100万円程度の研究費の使用を予定している。
|