2018 Fiscal Year Research-status Report
海馬ー前頭前野間の動的な情報処理における脱抑制の役割の解明
Project/Area Number |
18K15343
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
栗川 知己 関西医科大学, 医学部, 助教 (20741333)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | flexible communication / 領野間通信 / 局所神経回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では近年神経科学において着目されている、領野間の動的な同期現象による領野間の通信機構を脱抑制とよばれる回路の働きから明らかにしようとするものである。特にその回路の力学系としての性質に着目することで領野間の通信機序を解明する。そのために初年度は脱抑制によりどのように回路の挙動、力学系的な性質が変化するのかを解析することに注力した。 注目する脱抑制の回路には複数の細胞種類、典型的には3種類の抑制性神経細胞と1種類の興奮性細胞が存在することがしられている。それらのモデルをIzhikevich neuron model(このモデルでは適切なパラメタを用いることで、各種の神経細胞の挙動を再現することができる)を用いることで構成した。これの構成した各種のニューロンモデルを組み合わせることで所望の神経細胞回路の挙動がどのような条件のときに出現するのかの解析を行った。 また、もう少し一般的な形での神経系の挙動の力学系的な性質を理解する必要があると思われたのでそのための抽象的なモデルを構築し、入力に対してどのような応答を示すかの解析も行った。この研究はほぼ終了しており、近々論文としてまとめる予定である。 さらに、領野間の通信機構としての基礎的なモデルとなる海馬、嗅内皮質のモデルを手がけていたがそれもほぼ終了しつつある。この研究では、複数の細胞種がどのように協調して働くことで空間的な作業記憶課題を解決できるのかを明らかにした。ただし、このモデルでは同期現象などが比較的自明な条件として与えらているので、その点が問題であり、本課題の出発点でありより基礎的なプロトタイプに位置するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の申請時の計画では、複数の神経細胞種を含む神経回路網の構築とその力学系的構造の解析を平成30年度から31年度の前半で行う予定であった。しかし現段階では回路網の構築が終了したところである。したがって進捗状況としてはやや遅れていると評価した。 その原因としては、以下が挙げられる。 まず申請者の異動があり、研究環境の構築、とくにシミュレーション環境の構築が、申請時の想定よりもかなり遅れてしまったことが挙げられる。研究環境はすでに構築済みであるのでこれに関しては今後解消される。 次に、本課題の基礎的なあるいは予備的なモデルという位置づけの海馬ー嗅内皮質モデルが、実験データ解析が想定以上の複雑さのために遅れがあり、予想よりも遅れていることがある。このデータ解析も想像以上の試行錯誤を行った結果終了しているので、これ以上の遅れは生じないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のような原因で遅れが生じているが、すでに解決済みであるので今後は計画が順調にすすむと期待される。今後の研究の方策としては、申請計画書を踏まえて以下のように考えている。 1まず前半段階である複数の神経細胞種を含む神経回路網の同期構造の解析を行う。そのためのモデル構築はすでに完了しており、次の段階ではそれがどのような周波数帯で同期を示すのか、またそのための条件はなにか?とくに結合強度と興奮性細胞のパラメタを中心に解析を進めていく計画である。この過程が終了すると、次にその同期周波数帯が外部からの入力により変化しうるのか、変化するとすればどのように変化するのかを調べていく。この点は本研究課題のキモであり、詳しく綿密に行っていく。もちろん場合によってはまた前の段階に戻り、同期現象の条件の洗い出しも必要に応じて行っていく。この解析により、所望の”神経系の同期活動が外部刺激により脱抑制を通して変化する”ための回路網、及びそのための条件が明らかになる。この段階で一つの研究として、外部に対して論文として公表することを考えている。 2 後半として、ここまでの解析でえられた回路網を用いて領野間の同期現象を起こすための条件の洗い出しを行う。前半の解析で所望の回路網とそれらの性質がわかっているので、この解析はそこまで時間がかかるものではないと考えている。ただし、ここでは単に定性的に実際に海馬ー前頭前野において観察されるよう同期現象を再現するのではなく、定量的な再現を求めているのでその点が一番のネックになると今の時点では考えている。さらに、前半で得られた回路網の性質は海馬、前頭前野に限ったものではないので、ここで得られた知見から他の領野間での同期現象のために必要な条件も予言できると本研究の意義がさらにますので、これにも取り組みたい。
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Causes of Carryover |
計算機サーバーを当初の予定よりも安価なものに変更したため。次年度使用額は状況に応じて論文作成のための費用や、成果発表のための学会関係の費用として使用する予定である。
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