2019 Fiscal Year Research-status Report
Investigation into possible cognitive enhancement of tool recognition by transcranial direct current stimulation (tDCS) and its neural mechanism
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18K15344
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石橋 遼 東北大学, スマート・エイジング学際重点研究センター, 助教 (90750266)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 意味認知 / 道具使用 / 経頭蓋直流電流刺激 / fMRI |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画の主要なデータ分析手法である表象類似度解析(RSA)について、過去に取得したデータを再分析し、同手法の検定力(20人のデータの場合)を検討した。実験課題としてはよく知られた一般的な道具90個を認識させて脳活動を取得したものである。再分析として、任意の脳領域の活動パタンが道具間でどの程度類似しているかを示す類似度行列について、行列のパタンが「個人間で」どの程度異なるのかを、20人の平均的類似度行列と各被験者の類似度行列との相関によって評価した。脳のすべての領域に9mm半径の関心領域を設定するサーチライト法によって全脳解析を行った結果、最も類似度間の平均相関が高いのは左右の視覚領域であったが、それに準ずる高い平均相関を示したのは左の頭頂小葉であった。平均相関の高い領域は被験者感で共通の情報を表現していると考えられるため、同領域が道具に関連する情報を保持していることを支持する収束的証拠が得られた。どのような情報と言えるのかは次元削減による視覚的表示を用いて検討中である。本手法は通常のRSAを今回新規に拡張したもの(その性質からExploratory RSAと呼ぶ予定)であり、どのような共通情報であれ、それを保持する脳領域を検出できると考えられる。実際に今回左頭頂小葉以外の複数の意味認識関連領域が検出されている。本手法と結果の双方を今後学術誌に発表したいと考える。 道具認知におけるtDCSの効果についても、同手法を用いて表象類似度の「個人間の」平均相関がどの程度向上するかを検討する。上記の分析手法の確立に時間がかかったが認知課題については視覚刺激及びその呈示シーケンスの準備を完了している。今後これらを用いて課題実装し、予備調査によって課題プログラムの妥当性を確認したのちに行動実験及びtDCSを実際に使用した大脳皮質刺激・脳活動計測実験を完了させる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度には脳活動のパタンを検討する多変量解析手法として表象類似度解析(RSA)を拡張させた探索的表象類似度解析(Exploratory RSA)と呼べる手法及びそのプログラミングコードを実装できた。研究代表者はこの解析法について、人為的な意味間類似度のモデルがなくてもデータのみに基づいた探索的な多変量解析を実施できるという意味でfMRIデータの解析手法として新規性があると考えている。通常のRSAではあらかじめ実験者側で人為的な意味表象間類似度のモデル(特徴コーディングによるcosine類似度モデル)を作成して使用する必要があるが、新規手法は「何らかの共通の情報」が表現されている場合にはいつでもそれを検出でき、かつその個人間の収束度も指標として取り出すことができる。この意味で本研究事業(tDCSのよる表象の変化の検出を目的とする)における利用にふさわしい。このような解析手法の確立には意味があったと考えるものの、同手法の発案からコード作成と実施・妥当性検証までに6か月程度の時間がかかっており、それによって当初実施検討していた経頭蓋直流電流刺激(tDCS)実験については、準備は進めたものの本年度中に開始することはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度中に得られた再分析結果から以下のように計画を更新し進める予定である。まず、本年度初頭に考えていた実験計画の問題として、統計的検定力が不足するのではないかとの懸念が生じた(特徴コーディングによるcosine類似度モデルを用いたRSAでは常に上述のExploratory RSAよりも検定力が低くなるはずであるため)。従って実験に使用する認知的課題はある程度の負荷と持続時間を持っていることがやはり望ましい。本年度当初は道具の写真を連続呈示して、その操作方法の類似性に関する0-back課題と1-back課題を両方検討していたが、0-back課題では情報の保持時間が短くなると考えられるため、1-back課題での刺激呈示シーケンスを作成中である(候補となるシーケンスの自動生成スクリプトをすでに完成させた)。この課題を実行させたときの所要時間、行動指標(反応時間/正答率)におけるtDCS効果、必要な繰り返し回数を予備調査結果から見積もり、fMRIで実際に効果検出が可能な手続きを決定する。その後tDCSを用いて10人程度を対象に同課題手法でのtDCS効果の確認を行う。またtDCSを使用しない状態で1-back課題における表象類似度及びそのパタンがベースラインとなるため、tDCSを伴わないMR撮像実験を並行して開始し、データを得る。このtDCS無しのfMRI撮像とExploratory RSAを用いた研究成果のみでも新規性があると考えられるため、撮像実験によってデータの質が確かめられた場合(これまでの結果に合致する脳領域での表象類似度の高相関が確かめられた場合)は改めて同分析手法の提案を伴う研究実績として論文を取りまとめる。tDCS予備実験,fMRI実験のそれぞれにおいて予想されるような結果が得られた場合に、両手法を同時に用いた実験によりtDCSが脳活動パタンに与える影響を検証する。
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Causes of Carryover |
認知能力向上の神経科学的指標として当初予定していたfMRI信号の表象間類似度解析(RSA)に関して、関連実験データを検討したところ、少なくとも20名程度のデータでは結果の安定性が不足している傾向が見られた。この結果については同解析法において用いる、道具の特徴の共通度に基づいた「意味表象モデル」に左右されると考えられたため、このような人為的なモデルの使用を必要としない解析手法を新たに検討し、脳活動パタンの道具刺激間類似性が被験者間でどの程度一致しているか(そのような一致が見られる領域は脳のどこにあるか)を検出するExploratory RSAと呼べる手法を開発した。本研究計画で目標としていた、tDCSが脳活動に与える効果の検出に関して、学術誌において報告可能な程度の安定した結果を得るためにはこの新しい(検出力の高い)分析法を確立させてそれを用いるか、もしくは単純な活動量増大のような比較的安定した指標を求めるほうが研究の実際的な目標として実現性が高く、実際に被験者を募集して実験を行う意義があると考えられた。このため実験デザインの改善と改めての予備調査の実施が必要であり、延長を希望した。
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