2018 Fiscal Year Research-status Report
低血糖による糖尿病網膜症増悪におけるミトコンドリア由来活性酸素種の寄与解析
Project/Area Number |
18K15422
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
梶原 伸宏 熊本大学, 医学部附属病院, 医員 (80814756)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 低血糖 / ミトコンドリア由来活性酸素種 / 脂肪酸酸化 / 糖尿病網膜症 |
Outline of Annual Research Achievements |
低血糖が糖尿病合併症の発症・進展に関与する機序として、低血糖が炎症や血液凝固系異常、血管内皮障害を惹起し心血管イベント発症に関与する可能性 (Diabetes Care 2010) や 、糖尿病網膜症患者の硝子体中でVEGF、Interleukin (IL)-8、IL-6、endothelin-1、腫瘍壊死因子αなどが増加しており (Exp Diabetes Res 2007)、低血糖時にそれらが増加する (J Clin Endocrinol Metab 2002) という報告がある。しかしながら、低血糖と糖尿病合併症増悪機序に関しては未だ一定の見解が得られていない。申請者らは、高血糖が血管内皮細胞においてミトコンドリア由来活性酸素種 (mtROS) の過剰産生を誘導し、糖尿病合併症の成因と考えられていた細胞内代謝異常を引き起こすこと (Nature 2000)、血管内皮細胞に特異的にMnSOD (mtROS特異的除去酵素) を発現させたトランスジェニックマウスの作製に成功し、mtROSの制御により糖尿病網膜症の発症抑制が認められたこと (Biochem Biophys Res Commun 2008) 等を報告し、糖尿病の合併症発症にmtROSの関与が大きいことを明らかにした。一方、低グルコース状態下の血管内皮細胞においても脂肪酸酸化亢進を介してmtROSが増加し、その結果として血管内皮障害を誘導することを世界で初めて報告した (J Diabetes Investig 2017)。本研究では、網膜血管内皮細胞を用いて、低血糖により誘導されたmtROSが糖尿病網膜症増悪に関与する可能性を検討する。さらに低血糖誘導mtROSの産生機序として脂肪酸酸化亢進が関与することを動物実験においても明らかにし、低血糖時の脂肪酸酸化亢進を標的とした新規合併症治療法の開発を探索する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究におけるin vitroの実験として、ヒト網膜毛細血管内皮細胞 (HRMECs) における低グルコース刺激によるmtROS産生を検討した。mtROSは還元型Mitotracker Redを用い共焦点レーザー顕微鏡により観察・検討を行った。また増加したROSがミトコンドリア由来であることの確認のため、adenoviral vectorを用いてミトコンドリア型スーパーオキシドジスムターゼであるMnSODを過剰発現 (Nature 2000) させたヒト網膜毛細血管内皮細胞(HRMECs + MnSOD)を使用した。a) HRMECs; 正常グルコース濃度培養群 (NG群; 5.5 mM)、b) HRMECs; 低グルコース濃度培養群 (LG群; 2.5 mM)、c) HRMECs + MnSOD ; 低グルコース濃度培養群 (LG + MnSOD群) の3群による検討では、LG群はNG群に比してMitotracker Redの蛍光強度増加を認め、LG + MnSOD群ではその蛍光強度増加が抑制されていた。大動脈血管内皮細胞における既報の結果と同様の現象が、HRMECsにおいても確認された。次いで、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1 (CPT1) 阻害剤であるetomoxirを用いることで脂肪酸酸化阻害によるmtROSへの影響を評価した。LG + etomoxir群では、LG + MnSOD群と同様にLG群で確認されたMitotracker Redの蛍光強度の増加が抑制された。以上の結果から、低グルコース状態下の網膜血管内皮細胞においても脂肪酸酸化亢進を介してmtROSが増加することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞実験に関しては、当初より想定していた方向で実験結果を得ている。今後は低グルコース誘導mtROSによる網膜血管内皮細胞の透過性亢進ならびに細胞間接着への影響を検討する予定としている。一方、動物実験に関しては、糖尿病モデルマウスに対する低血糖刺激実験を施行している段階である。低血糖刺激終了後のマウス網膜を免疫染色法にて検討することで、細胞実験同様に酸化ストレスマーカーが上昇すると想定している。また網膜血管透過性亢進に関与する分子の発現や血管透過性に関しても検討を進める予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は培養細胞ならびに細胞実験の消耗品の購入に助成金を使用した。当該年度使用金額の集計の結果、23,510円の残額が生じたため、翌年度分と合算し、次年度の細胞実験、動物実験のための費用に使用する計画としている。
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