2019 Fiscal Year Research-status Report
低血糖による糖尿病網膜症増悪におけるミトコンドリア由来活性酸素種の寄与解析
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18K15422
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
梶原 伸宏 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 特任助教 (80814756)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ミトコンドリア由来活性酸素種 / 低血糖 / 糖尿病網膜症 / 脂肪酸酸化 / 網膜血管内皮細胞 / 血管透過性 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は糖尿病合併症発症仮説として、高血糖下における「ミトコンドリア由来活性酸素 (mtROS) 過剰産生」説を提唱しているが、低血糖下においても大血管症モデルにて脂肪酸酸化亢進を介してmtROSが増加し、大血管内皮障害を引き起こすことを報告した。しかしながら、低血糖と糖尿病網膜症との関係は未だ不明である。一方、血液網膜関門 (Blood-Retinal Barrier: BRB) の破綻はDRの初期病態の一因とされ、血管透過性を亢進させる。低血糖誘導性のDRの背景にある機序として、低血糖時のmtROS産生によるBRBの破綻が関連しているという仮説を立てた。そこで、低血糖がmtROS産生を増悪させ、BRB破綻を誘導するか否か、低血糖誘導mtROS産生の抑制はDRの新たな治療標的となりうるか否かを証明することを本研究の目的とした。網膜毛細血管内皮細胞において、低グルコース状態はmtROS産生増加を誘導すること、それらがmtROS特異的除去酵素であるmanganese superoxide dismutase (MnSOD) を過剰発現させることにより抑制されることを確認した。また、脂肪酸酸化阻害作用を有するetomoxirを用いることで、低グルコース誘導mtROSが減少した。このことから、低グルコース状態において、脂肪酸がmtROS産生増加の基質であることが示唆された。反復する低血糖刺激は、糖尿病モデルマウス網膜において、酸化ストレス、血管透過性因子であるvascular endothelial growth factor (VEGF) 発現、アルブミン漏出を増加させ、これらは血管内皮細胞特異的MnSOD発現トランスジェニックマウスで抑制された。また、etomoxir投与下の糖尿病モデルマウス網膜において低血糖時のmtROS、VEGFの産生を減少させ、血管透過性亢進を抑制した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の報告では、in vitroの実験として、ヒト網膜毛細血管内皮細胞を用いて、低グルコース刺激により脂肪酸酸化の亢進を介したmtROS産生増加を確認した。2019年度はこの結果を踏まえ、in vivo実験を中心に検討を進めた。野生型マウス (WT) と血管内皮特異的MnSOD過剰発現マウス (Tg) に対してストレプトゾトシンを腹腔内注射 (i.p.) し糖尿病 (DM) モデルマウスを作成した。DM罹患2週間経過後、インスリンi.p.による低血糖刺激を計6回 (3回/週) 実施した (WT-DM-低血糖群、 Tg-DM-低血糖群)。また、非低血糖刺激群にはインスリン投与と同時に10 g/kg BWのグルコースを投与した (WT-DM群)。脂肪酸酸化の関与を検討するために、低血糖刺激期間に隔日で脂肪酸酸化阻害作用を有するetomoxir 30mg/kg BW をi.p.した (WT-DM-低血糖+etomoxir群)。最終低血糖刺激終了後、網膜切片を作製し、網膜組織における酸化ストレスは8-hydroxy-2'-deoxyguanosine (8-OHdG) 抗体、BRBの破綻を示唆するアルブミン漏出はAlbumin抗体、血管透過性亢進作用を有する Vascular endothelial growth factor (VEGF) はVEGF抗体を用いて蛍光免疫染色法により評価した。WT-DM-低血糖群では、WT-DM群に比し網膜組織における8-OHdG、Albumin、VEGFの染色増強を認めた。Tg-DM-低血糖群、WT-DM-低血糖+etomoxir群では、これらの染色増強の抑制を認めた。以上より、低血糖により網膜組織での酸化ストレスが増加すること、低血糖時に脂肪酸酸化亢進を介して増加したmtROSがVEGFの発現増加、血管透過性の亢進に関与することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に実施した動物実験の結果を踏まえ、同様の現象の再現性を細胞実験にて確認する予定としている。具体的には、ヒト網膜毛細血管内皮細胞を用いて低グルコース誘導mtROSによる網膜血管内皮細胞の透過性亢進ならびに細胞間接着への影響を検討する予定としている。細胞間接着に関しては、細胞間接着因子であるVEカドヘリンに着目し検討を進める方針である。
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Causes of Carryover |
本年度は動物実験を中心に実験をすすめたため、培養細胞ならびに細胞実験の消耗品の購入費用が当初の予定よりも下回ったことにより、62649円の残額が生じた。翌年度分と合算し、次年度の細胞実験、動物実験ならびに学会発表のための旅費に使用する計画としている。
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