2019 Fiscal Year Research-status Report
Notchリガンドの機能的差異を基盤とした肝細胞癌治療への新戦略
Project/Area Number |
18K15826
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中野 泰博 東京大学, 定量生命科学研究所, 特別研究員 (80755439)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 肝癌 / Notch / Notchリガンド / Dll4 / Jag1 |
Outline of Annual Research Achievements |
C型肝炎治療法の進歩に伴い、肝炎ウイルス排除後も残存する線維化と発癌が新たな臨床的問題を生み出している。これまで我々は、線維化の進展に伴って活性化するJagged-1 (Jag1)/Notch2シグナルが肝前駆細胞の動員と線維肝の再生に重要であることを報告してきた(Nakano Y., et al. Hepatol Commun. 2017)。一方で、肝癌の発生や進展においてNotchシグナルが果たす役割については、促進的にはたらくという報告と抑制するという報告があり、いまだ一定の結論が得られていない。そこで本研究課題は、diethylnitrosamine (DEN)によりランダムな遺伝子変異を引き起こす肝発癌モデルを用いて、Notchリガンドならびに受容体の発現動態と機能を明らかにすることで、肝細胞癌の治療への応用を展望する。 前年度までの実施内容として、野生型マウス、Mx-Cre/Jag1-floxマウスに対して、3週齢でDENを腹腔内に単回投与後、8週齢でpolyIC投与によるJag1遺伝子欠損を誘導し、10か月の飼育後に肝癌の形成を評価した。 その結果、DENの投与によって誘発されたマウス肝癌組織において、Jag1は肝癌細胞があまり増殖していない領域の間葉系細胞に発現していたのに対して、他のNotchリガンドであるDelta-like 4 (Dll4)は高増殖領域の肝癌細胞に発現していることを見出した。さらに、Jag1ノックアウトマウスでは対照マウスと比較し、肝癌が高頻度に発生することが示された。このことから、Jag1を介したNotchシグナルは肝癌の進展を抑制していることが明らかとなった。また、DEN投与後にJag1の欠失を誘導すると、肝細胞において異所的にDll4の発現を獲得することも見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はDll4-floxマウスに対して、3週齢でDENを腹腔内に単回投与し、8週齢で肝細胞特異的iCre発現アデノ随伴ウイルスを投与することによって、肝細胞特異的Dll4遺伝子欠損させたマウスの肝癌を組織学的に評価した。その結果、Dll4欠損によって、肝細胞癌の発生は顕著に抑制され、腫瘍を形成していてもその大きさが有意に小さいことが明らかとなった。これまでの本研究課題の成果であるJag1欠損マウスによる肝癌の促進とは相反する結果となり、異なるNotchリガンドがNotchシグナルの質の違いを生んでいることが示唆された。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度の成果である異なるNotchリガンドがNotchシグナルの質の違いを生んでいることが示唆されたことから、2020年度はこのシグナルの質の違いを追求する。現在、予備的な検討によってDll4はNotch受容体であるNotch1およびNotch3と、Jag1はNotch2とそれぞれ結合することでNotchシグナルを活性化していることが示唆されている。この結果から、Notch受容体の異なりによって、その下流因子がどう異なるのかを解析する。
|
Causes of Carryover |
マウスに肝細胞癌を発生させるのに長期間の飼育が必要となったため、分子機序を解析する実験に必要な試薬などを2020年度に持ち越した。
|
Research Products
(7 results)