2018 Fiscal Year Research-status Report
心不全の病態生理においてドパミン受容体D1が果たす役割の解明
Project/Area Number |
18K15881
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 敏弘 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (50802394)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ドパミン受容体 / 心不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性心不全は未だ予後不良の疾患であり、これまでモデル動物を用いた基礎研究が積み重ねられてきた。しかし、従来の研究では「モデル動物とヒトの種差及び心不全の病態の差異」が臨床応用における重要な課題となってきた。研究者はこの課題を乗り越える工夫として、圧負荷モデルマウス及び複数の病態のヒト心不全における心臓組織の遺伝子発現を複合的かつ網羅的に解析することで、いずれの病態においても発現が大きく増加する共通の遺伝子としてドパミン受容体D1を同定している。本研究の目的は、種を超えた心不全の本質的な病態形成に心臓ドパミン受容体 D1(D1R)が寄与するという仮説のもと、心不全の病態生理における心臓D1Rの果たす役割を解明することである。 研究者は当該年度の研究成果により心不全時のD1Rは心筋細胞において増加していることを明らかとしている。本結果をもとに心筋細胞特異的D1Rノックアウトマウス及び心筋細胞特異的D1R強制発現マウスを作成し、心不全時に増加する心筋D1Rの機能解析を行い、その生理的役割を明らかとした。現在In vitroの系を用いて心不全時のDrd1の転写制御メカニズムの解明ならびにD1Rの増加によって心筋細胞にもたらす生理的変化の検証を進めている。本研究計画で得られる成果は、ヒト心疾患領域において心臓ドパミン受容体に関する新たな知見を加えるとともに、ドパミンシグナルを標的とした心不全の新規治療法の開発に繋がるものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究者は過去の知見をもとに、心不全時に増加する心臓D1Rが心筋細胞内カルシウムハンドリング異常を惹起することで致死的不整脈を誘導するという仮説を想定している。まず心不全時に増加する心臓D1Rの局在を明らかにすべく、FISH法による局在解析を行ったところ、心不全時のD1Rは心筋細胞において増加していることが明らかとなった。本知見をもとに心筋細胞特異的D1Rノックアウトマウスを作成し心不全を誘導したところ、同マウスでは心室性不整脈が有意に抑制され、かつ心不全時の予後も有意に改善されることが明らかとなった。さらに心筋細胞特異的D1R強制発現マウスを作成したところ、同マウスでは非心不全誘導時においても心室性不整脈が増加することが明らかとなった。本結果より、心不全時に増加する心筋D1Rは致死的不整脈の惹起に寄与していることが明らかとなった。現在、In vitroの実験を用いて心不全時に心筋D1Rが増加する機序の解明及び、心筋D1Rが不整脈を惹起する機序の解明につき解析準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究者はこれまでの研究結果をもとに、現在In vitroの系では心不全時のDrd1(D1Rの遺伝子名) の転写制御メカニズムの解明ならびにD1Rの増加によって心筋細胞にもたらす生理的変化の検証を進めている。具体的には、研究者は既にDrd1プロモーター領域のモチーフ解析により Drd1の制御pathwayを絞り込んでおり、培養心筋細胞を用いて同pathwayを活性化する因子の検証実験を進めている。D1Rの発現制御メカニズムを明らかにすることで、より上流因子を制御する心不全治療法の開発に繋がることが期待される。また、アデノウイルスを用いたD1Rの強制発現心筋細胞モデルを作成済みである。本細胞を用いて細胞内カルシウムハンドリング異常が生じ、催不整脈性を惹起しているという仮説を検証する予定である。 本研究課題の最終目標はヒト心疾患領域において心臓ドパミン受容体に関する新たな知見を加えるとともに、ドパミンシグナルを標的とした心不全の新規治療法の開発に繋げることである。本研究計画が順調に進んだ場合にはヒトにおいても同様の表現が認められるか、今後の新たな研究に繋げていきたいと構想中である。
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Causes of Carryover |
初年度の本学術研究遂行にあたっては、当初購入を予定していた不整脈解析機器の借用・無償利用が可能となったことや、マウスの繁殖スピードが想定よりもやや緩やかであったため、必要経費が当初の想定より少ない額となったが、研究進捗そのものは順調である。また、初年度においてはマウスの表現型を明らかにすることができたが、さらにその作用機序を明らかとする研究を進めるために力点を置き、学術集会での発表・公表に関しては次年度とすることとしたため、初年度には旅費を必要としなかった。次年度よりさらなる成果を挙げ当該研究内容の知見を広く普及していく所存である。
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