2018 Fiscal Year Research-status Report
Establishment of efficacy and safety for the treatment of severe heart failure using human induced pluripotent stem cells
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18K15903
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中嶋 一晶 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (30594569)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 再生医療 / 重症心不全 / 心筋細胞移植 / 催不整脈 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の研究グループでは、心筋細胞と未分化iPS細胞の代謝の違いから、培養条件により効率よく心筋細胞のみを純化精製する方法を報告し、二次元大量培養法によって臨床品質のiPS細胞由来心筋細胞を大量培養する方法を確立している。これらの高効率な心筋細胞の培養法と純化精製法により残存未分化幹細胞と非心筋細胞の混入を防ぎ、腫瘍形成をきたすことなく心筋細胞移植が可能である。さらに心臓は拍動する臓器であり、移植後に細胞が容易に拍出されるため生着率が低下することが明らかになっている。そこで心筋細胞を200μm程度の心筋球として移植し、特殊なマトリックス(ゼラチンハイドロゲル)を用いることで移植心筋細胞の脱落を防ぎ、生着効率を改善させうることを報告している。これらの研究成果よりiPS細胞由来の心筋細胞を用いた再生医療の臨床応用への期待が高まっているが、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞を移植し長期生着と安全性、有効性を評価する必要性がある。本年度は、免疫不全マウスの心臓への移植によって純化精製したヒトiPS細胞由来の心筋球が安全に4ヶ月間にわたり長期生着することを確認した。また、心筋球を使用した細胞移植法による有効性の評価のために免疫不全ラットにクライオインジャリーによる心不全モデルを作成し、再生心筋球を移植した。継時的に心エコーで心機能評価を行い、移植細胞により心機能が改善することを確認した。さらに移植細胞の生着評価として移植前にレンチウイルスを使用して心筋球にルシフェラーゼ活性をもたせ、ルシフェラーゼ活性の評価により継時的な細胞生着の確認を行った。最終的に組織切片を用いて免疫染色により移植細胞の生着を評価することで複合的に細胞生着の評価を行った。以上の結果より純化精製したヒトiPS細胞由来の心筋細胞は小動物の心臓に長期生着し、腫瘍形成することなく心機能を改善することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は免疫不全マウスとラットの心臓に純化精製したヒトiPS細胞由来心筋細胞を心筋球として移植をおこなった。免疫不全マウスへの移植後4ヶ月では移植されたヒトiPS細胞由来の心筋細胞がレシピエントの心臓に大量に生着し、腫瘍形成を認めなかった。また、移植心筋組織は血管内皮細胞のマーカーであるCD34が陽性であり、移植された心筋組織はレシピエント心臓から血流を受け生着することが明らかになった。さらに移植された心筋細胞はギャップジャンクションのconnexin 43 を発現しており電気生理学的活性を有することが明らかになった。一方、心筋細胞への分化誘導後に純化精製せずに移植を行った群では腫瘍形成することが明らかになった。この結果より、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞移植には残存未分化iPS細胞と非心筋細胞を除去するための純化精製が必須であることが明らかになった。また、移植されたiPS細胞由来の心筋細胞がどのように生着するのかを継時的に確認するために移植前の心筋球にレンチウイルスを使用してルシフェラーゼ活性をもたせたうえで移植を行った。コントロールとして未分化iPS細胞を移植した実験では腫瘍形成に伴い継時的にルシフェラーザ活性の増加を認めたが、純化精製した心筋細胞の移植では移植後に安定したルシフェラーザ活性を認め移植部位に心筋細胞が3ヶ月間生着することが明らかになった。さらに、クラインインジャリーを用いて心不全モデルを作製し、心筋球の移植を行った。移植後継時的に心エコーで心機能の評価を行い、心筋細胞移植群において心機能の改善を認めた。病理組織では抗ヒト核抗体陽性の心筋細胞がレシピエントの心臓に大量に生着していることが確認された。これらの研究成果より、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞はレシピエントの心臓に腫瘍形成することなく長期間生着し、心不全の心機能改善に寄与することが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、純化精製したヒトiPS細胞由来心筋細胞を心筋球として移植することによって免疫不全マウスとラットの心臓に長期間生着することが明らかになった。また、造腫瘍を起こすことなく安全に移植することが可能であった。さらに、クライオインジャリーによる心不全ラットへの移植によって心筋球移植群では移植後3ヶ月の時点においても心機能が改善することが明らかになった。来年度は引き続き小動物の実験数を増やして結果を確認するとともにカニクイザルを用いた霊長類への移植実験を行う。これまでの我々の研究成果では、免疫不全ラットの心臓へヒト心筋細胞の移植1ヶ月後の時点においては有意な不整脈を認めなかった。一方、サルにサルiPS細胞由来心筋細胞やヒトES細胞由来心筋細胞を移植したこれまでの研究報告では、心筋細胞移植後の1ヶ月間に心室性頻拍や促進型心室固有調律が頻発することが報告されており、1ヶ月をすぎると不整脈は自然軽快することが明らかになっている。ラットの心拍数は1分間に400を越えるため、移植したヒト心筋細胞と同期できず不整脈が誘発されなかった可能性もある。それゆえ、来年度はカニクイザルの心筋梗塞モデルを用いて免疫抑制剤投与下でヒトiPS細胞由来の心筋細胞を移植することによって心筋細胞移植による心機能改善効果と催不整脈性を評価する。ヒトiPS細胞由来の心筋細胞は、ペースメーカー細胞、心房筋細胞、心室筋細胞が混在している。これまでの報告では、心筋細胞移植後の不整脈の機序はtriggered activityである可能性高いと考えられている。特にペースメーカー細胞の混入は不整脈源となる可能性が高い。一方、我々の作製したiPS細胞由来の純化心筋細胞は、心室筋細胞の形質を有している。純化精製された心室筋細胞の移植によって不整脈が惹起されなければ今後の臨床応用の安全性は飛躍的に高まると予想される。
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Causes of Carryover |
本年度は免疫不全マウス、ラットへヒトiPS細胞由来心筋細胞を移植し安全性と有効性の評価を行った。本年度の研究成果より、前臨床研究へと移行するための心筋細胞移植の技術基盤が整っていることが確認された。来年度は本年度の結果を検証するとともに、主に前臨床試験としてカニクイザルを用いた細胞移植研究を行う。カニクイザルに心筋梗塞モデルを作製し、免疫抑制剤の投与下にてヒトiPS細胞由来心筋細胞を心筋球として移植する。CT検査によって心筋細胞移植による心機能の改善を確認する。さらにはホルター心電図によって心筋球移植による催不整脈性を確認する。本研究による催不整脈試験は安全性試験として最も重要である。小動物の研究と異なりカニクイザルの研究成果はヒトと同じ霊長類の研究結果であるため研究データをヒトへ外挿することが容易であることから臨床的意義は極めて大きい。一方、カニクイザルの研究には動物愛護の観点から厳重な飼育管理が必要であり、小動物よりもはるかに多くの研究費を必要とする。また、小動物と比べて心臓が大きいため移植する心筋細胞も大量に必要となる。それゆえ、iPS細胞と分化心筋細胞を培養するための培養液や試薬、実験器具に本年度以上の研究費が必要とされる。重症心不全の再生医療を実現化するために本年度の研究費を必要最低限として成果をあげ、次年度のカニクイザルでの研究を円滑に推進するために使用額を持ち越した。
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Research Products
(1 results)