2019 Fiscal Year Research-status Report
肺癌患者における薬剤性肺障害の病態解明:RAGE/HMGB1 axisの視点から
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18K15951
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
山口 覚博 広島大学, 病院(医), 助教 (90812991)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 薬剤性肺障害 / 間質性肺炎 / 肺癌 / RAGE / HMGB1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「肺癌患者における薬剤性肺障害の予測マーカーの開発」と 「RAGE/HMGB1 axisを標的とした薬剤性肺障害の予防的創薬のための基盤研究」を目指している。 2019年度は、2018年に行っていた患者由来の保存血清を用いたバイオマーカーの測定を引き続き進めた。健常コントロール80例・間質性肺炎を合併していない肺癌患者120例・間質性肺炎を合併している肺癌患者80例の測定を予定していたが、2018年度に8割程度の測定を終え2019年度にすべての検体の測定を終了した。 結果としては血清sRAGE値は「健常コントロール>間質性肺炎を合併していない肺癌患者>間質性肺炎を合併している肺癌患者」の順に統計学的有意に低下しており、血清HMGB1値は「健常コントロール<間質性肺炎を合併していない肺癌患者<間質性肺炎を合併している肺癌患者」の順に統計学的有意に上昇していた。以上の結果から、血液循環中に存在するsRAGE・HMGB1ともに肺がんだけでなく間質性肺炎の存在の影響も受けることが明らかとなった。 また血清sRAGE低値・血清HMGB1高値ともに薬剤性肺障害の早期発症と関連を有しており、Cox hazard modelを用いた多変量解析においては血清HMGB1高値が独立した薬剤性肺障害の発症リスクであった。この結果は、今後HMGB1が薬剤性肺障害の有望な発症予測バイオマーカーになりえる可能性があることを示している。 今後は今回患者由来の血清を用いてえられた結果をもとに、細胞やマウスを用いてsRAGE/HMGB1バランスやRAGEシグナルをターゲットとした薬剤性肺障害の予防的創薬を目指すべく研究を進捗中である。具体的にはRAGE阻害薬やHMGB1の中和作用が報告されているトロンボモジュリンを用いて薬剤性肺障害の発症抑制が可能か検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における一番の目標としていた患者血清を用いたバイオマーカー測定は完了している。ほぼ仮説と近しい結果がえられており、動物モデルを使用した薬剤性肺障害に対する予防的創薬の基盤となる知見がえられた。現在は予防的創薬における候補薬による動物実験を行っており、こちらにはまだ時間が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性としては以下を考えている。 ①RAGE/HMGB1に着目した薬剤性肺障害の予防的治療法の開発:これは現在すでに着手しており、研究を進める。 ②RAGEシグナルに関与する他の分子の関わりについての検討:本研究はRAGE/HMGB1にのみ着目して研究を行ったが、これらの分子に影響を与える分子は他にも多く存在する。例えばRAGEリガンドとしてはHMGB1以外にAGEsやS100蛋白が有名である。またHMGB1・S100蛋白はRAGE以外にTLR4にも結合することが知られておりその関係性は複雑である。機能プロテオミクスの手法を用いて網羅的な蛋白発現やその相互作用について推定を行い、他の分子の関わりに関して検討する。 ③前向き観察研究による薬剤性肺障害発症予測マーカーの確立と臨床応用:今回えられた治験をもとに多施設前向きの観察研究を立案し、バイオマーカーの有用性に関して検証作業を行う。加えて、臨床の現場で使用可能なように測定系の構築も試みる。
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