2018 Fiscal Year Research-status Report
過形成副甲状腺の周辺脂肪組織に検出される異所的な副甲状腺ホルモン産生細胞の解析
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18K16009
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
巽 亮子 東海大学, 医学部, 助教 (60631819)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 二次性副甲状腺機能亢進症 / 異所的PTH産生細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
二次性副甲状腺機能亢進症患者に施行された副甲状腺摘出術(PTx)により摘出された副甲状腺とその周辺組織の調査から、多数のPTx適用例で副甲状腺被膜外の脂肪組織に異所性副甲状腺ホルモン(PTH)産生細胞のコロニーが見つかっている。本研究においては、これらの副甲状腺周囲の脂肪組織に散在する異所性PTH産生細胞の由来を明らかにすることを目的して、移植実験やエピジェネティクス解析による検討を行い、併せて過形成腺周囲の脂肪組織蓄積の機序についても調査する。本年度の研究実績の概要は以下のとおり。 (1)PTx適応患者のその後の調査から、総計31名中23名(74.2%)に副甲状腺周囲の脂肪組織中の異所的なPTH産生を認めている。PTH産生は腺に近い脂肪組織(近傍脂肪組織)で高頻度に検出された(71.0%)が、その周囲にある脂肪組織(周辺脂肪組織)中でもある程度検出された(35.5%)。 (2)異所的なPTH産生が検出された脂肪組織の切片の免疫組織化学では、PTH産生細胞のコロニーが多数検出された。異所的なPTH産生細胞のコロニー中ではPTH産生細胞は大きな油滴を持つ脂肪細胞と複雑に入り組んで配置している様子が観察され、異所的なPTH産生の検出が、PTxの際の副甲状腺細胞の混入によるものではないことが明らかになった。PTH産生細胞のコロニー中には血管が貫通しているのも観察され、分泌されたPTHが血流に分泌されていることが示唆された。 (3)過形成副甲状腺周辺への脂肪蓄積を再現するため、患者から摘出した副甲状腺の実質部の組織片を亜腎適処理と高リン食餌を施した免疫不全ラットの甲状腺に移植して培養したところ、移植片周囲の脂肪蓄積は見られなかったが、移植片細胞に脂肪分化マーカーであるPPARγとPerilipin の発現を検出した。ただし、移植片には大きな油滴を含んだ成熟した脂肪細胞は見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの調査により、異所的なPTH産生の由来の解明のヒントとなると事実として、以下のものが考えられる。 (1)二次性副甲状腺機能亢進症の患者より摘出された副甲状腺の調査は、31名の患者と76個の副甲状腺検体に及び、統計的な解析も十分に行えるだけの試料数に達している。これらの解析より、異所的PTH産生に副甲状腺からの距離に沿ったグラディエントが見られたことは、これらの異所的なPTH産生細胞を生じた機序の解明に対するひとつのヒントとなると思われる。 (2)副甲状腺を取り巻く脂肪組織の免疫組織化学によって、異所的PTH産生細胞のコロニーが多数散在しているのが見つかったことで、脂肪細胞によるPTH産生の可能性は否定され、形態的には副甲状腺実質細胞と似ていなくも無い細胞が異所的PTHを産生・分泌していることが明らかになった。異所的PTH産生細胞のコロニーでは、PTH産生細胞と脂肪細胞とが複雑に絡まりあう配置になっていることされていることは、PTxの際のコンタミネーションの可能性を否定するだけでなく、異所的なPTH産生細胞と脂肪細胞との深い関係を示唆するものであると思われた。 (3)副甲状腺実質組織の免疫不全ラットの甲状腺への移植は、移植片周囲への脂肪組織の蓄積を期待したものであったが、二次性副甲状腺機能亢進症のモデルマウス/ラットにおいては、ヒトの場合とは異なり、過形成副甲状腺への脂肪の蓄積は見られないのが普通であり、今回の移植実験においても、移植片周囲への脂肪の蓄積は認められなかった。しかし、移植片に脂肪分化マーカーであるPPARγとPerilipin2の発現を検出したことは、予想外の結果であったが、異所的PTH産生細胞と腺周囲の脂肪組織の由来とそれらの発生機序の解明に重要な事実を提供していると思われた。 以上の発見から、本研究がおおむね順調に進展していると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかにされた事実に基づき、次年度は過形成副甲状腺の周囲に蓄積する脂肪組織とその中に散在する異所的PTH産生細胞の由来と発生機序を明らかにすべく研究を行う。 具体的には、以下の実験で異所性PTH産生細胞の由来と脂肪蓄積の機序の解明を試みる。 (ⅰ)モデル動物へのヒト副甲状腺実質部の移植:本年度と同様に亜腎摘と高リン食餌を施したヌードラットの甲状腺中に、PTxで採取されたヒト副甲状腺片を移植する。本年度の結果は移植片の脂肪分化を示したが、成熟脂肪細胞は観察されなかった。よって、移植期間をさらに長く放置する、あるいは移植片を回収し、脂肪分化条件下の培養によって成熟脂肪細胞へと分化できるかどうかを検討する。 また、甲状腺以外の組織に移植したときの脂肪分化についても調査して、分化転換が移植片の自立的なものであるのか、あるいは周辺組織から促進されたものであるのかを明らかにする。 (ⅱ)異所性PTH産生細胞と未分化脂肪細胞および幹細胞の単離と培養:過形成腺周辺組織に含まれる幹細胞の分化能を検討するために、PTxで採取された過形成副甲状腺の周辺脂肪組織および副甲状腺被膜をコラーゲナーゼ処理し、それぞれの細胞成分を径の異なるメッシュで段階的にトラップして精製した異所性PTH産生細胞集塊、未分化脂肪細胞および繊維芽細胞を培養し、自律的に他種細胞へ分化転換する可能性について検討する。 (ⅲ)エピジェネティクス解析による細胞系譜解析:異所性PTH産生細胞とそれを含む脂肪細胞、および副甲状腺実質細胞について、エピジェネティックな相同性による系譜の識別を考え、比較する組織間で発現レベルの似た遺伝子について、ゲノム領域のDNAメチル化パターンをゲノムDNAのバイサルファイトシーケンス等により検索し、それらのパターンの相同性から細胞系譜の推定が可能かどうかを試みる。
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