2018 Fiscal Year Research-status Report
新規急性リンパ性白血病におけるステロイド抵抗性機序の解明
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18K16083
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
奥野 友介 名古屋大学, 医学部附属病院, 特任講師 (00725533)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 急性リンパ性白血病 / 小児がん / MEF2D融合遺伝子 / 次世代シークエンス / ステロイド抵抗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
急性リンパ性白血病(ALL)は最も頻度の高い小児がんである。全体としての長期生存率は85~90%と比較的良好であるが、一部の高リスクALLの予後は依然として不良である。2016年に、私たちの研究グループはALLの新規の原因遺伝子としてMEF2D融合遺伝子を同定した。MEF2D融合遺伝子を有するALL(MEF2D-ALL)のアジアにおける生存率は10%程度であり、高リスクALLである。予後不良を規定する因子として、私たちは、ALL治療のキードラッグであるステロイドに対して、MEF2D-ALLが抵抗性を示すことを明らかにした。MEF2D融合遺伝子を有さないALLにおいても、数%の症例はステロイド抵抗性を示し、予後も不良であるが、その機序は一部を除き明らかになっていない。この機序を明らかにすることで、MEF2D-ALLのみならず、全てのステロイド抵抗性を示すALLへの新規治療戦略を構築することを目的として、研究を行った。本年度においては、MEF2D-ALL細胞株における機能解析・発現分析を行った。計画していたMEF2D-ALLにおける体細胞変異のさらなる解析は、他の複数の研究グループから多数の報告がなされ、少数例の解析を行うことの意義が薄くなった。そのため、これまでに解析した4例の体細胞変異について、詳細な検討を加えることにした。 MEF2D融合遺伝子を有する2種類の細胞株について、ステロイド(デキサメタゾン)存在下の増殖と遺伝子発現プロファイルを検討した。増殖はステロイド濃度に依存しないものの、ステロイドに反応して発現量が上昇することが知られている遺伝子の一部に、発現量の上昇がみられた。体細胞変異の詳細な検討において、4例中1例について、ステロイド受容体遺伝子(NR3C1遺伝子)の欠失がみられた。これは、他のALLで報告のある、ステロイド抵抗性の機序の1つであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までの研究は、概ね順調に進展していると考えている。細胞株の遺伝子発現分析においては、ステロイド濃度に依存して段階的に変わる正確な遺伝子発現プロファイルが取得できており、さらに詳細な解析を進めることで、既報の機序を含めて、ステロイド抵抗性の機序を推定することができると考えられる。体細胞変異の解析においては、少なくとも1つの、ステロイド抵抗性を生じる機序(ステロイド受容体遺伝子の欠失)を同定した。すなわち、体細胞変異の解析も、ステロイド抵抗性の機序を解明するために有用である可能性が示された。この観点において、他の研究グループによる変異解析データの再解析や、あらたなMEF2D-ALL症例の患者検体を用いた変異解析は有用かもしれない。次年度以降に計画している、発現クローニングやスクリーニング実験の実施に加えて、患者検体の収集も行い、網羅的な変異解析ができれば、さらなる成果に結びつくと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に基づいて、研究を推進したいと考えている。すなわち、MEF2D-ALL細胞株の遺伝子発現分析から得られたデータをさらに解析し、ステロイド抵抗性の機序を推定する。加えて、MEF2D-ALL細胞株を用いた発現クローニングと、遺伝子のCRISPR/Cas9システムを用いたノックダウンスクリーニングによって、ステロイド抵抗性に関与する遺伝子群を同定する。すなわち、ステロイド感受性がある細胞株をcDNAライブラリー、あるいはCRISPR/Cas9のガイド配列ライブラリーを用いてライブラリー化し、ステロイド添加によって選択することで、ステロイド抵抗性を生じる遺伝子が同定できる。また、症例数が非常に少ないため難航が予想されるが、患者検体をさらに収集し、体細胞変異のプロファイリングを行う。研究期間内に実施が可能であれば、発見されたステロイド抵抗性の機構が、MEF2D融合遺伝子を有さないALL、ならびに他のリンパ系悪性疾患においても存在するか検討する。利用可能なリンパ系腫瘍悪性疾患由来の細胞株についてステロイド抵抗性を検討し、抵抗性のものについてその機序を確認する。
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Causes of Carryover |
細胞株を費用を要するレポジトリではない経路で入手が可能であったこと、薬剤(デキサメタゾン)について安価な入手が可能であったこと、MEF2D-ALLにおける体細胞変異のさらなる解析は、他の複数の研究グループから多数の報告がなされ、少数例の解析を行うことの意義が薄くなったため中止したことが、理由として挙げられる。購入予定であった薬剤ライブラリーにつき、もう少し規模の大きいものを購入し、網羅性の高いスクリーニングを行うことを計画する。
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