2018 Fiscal Year Research-status Report
骨髄増殖性腫瘍におけるドライバー変異クローンの腫瘍化メカニズムの解明
Project/Area Number |
18K16120
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
宮脇 恒太 久留米大学, 医学部, 研究員 (50774709)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ドライバー変異 / CHIP / 巨核球系前駆細胞 / 本態性血小板増多症 / 骨髄増殖性腫瘍 / シングルセル |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の研究から、健常人末梢血中には、白血病の要因となるゲノム変異(ドライバー変異)が、想定以上に高頻度で存在すること(CHIP)が明らかになった。CHIPの存在はすなわち、ドライバー変異自体は、造血器腫瘍発生のための必要条件ではあっても十分ではなく、発症のためには他の”何らかのメカニズムが必要、ということである。CHIPが加齢変化として不可避である以上、この ”何らかのメカニズム”こそが、腫瘍発生機序の解明や新たな治療戦略構築の鍵となる。 我々は、このような腫瘍化のメカニズムを理解するモデルとして、以前から本態性血小板増多症(ET)の発症について研究を行っている、ETのドライバー変異であるJAK2変異を有するクローンは、造血幹細胞(HSC)のレベルから存在しているが、この段階ではまだ増殖能力は低く、正常のHSCよりも少ない。しかしながら、HSCから分化して前駆細胞のレベルになると、増殖能力を獲得し、正常クローンを遙かに凌ぐ数となる。 このような過程を理解するためには、どの段階でJAK2変異クローンが増殖能力を獲得するかを正確に把握する必要がある。したがって、我々はまず、血小板分化を運命づけられた前駆細胞(MegP)を前方視的に定義できるマーカーを同定することを目的に研究を行い、これに成功した。実際、ET患者骨髄においては、HSCからMegPの段階になると急激に増殖能を高まることを示した。これらの細胞集団を、正常クローンとJAK2変異クローンとに分けて、単一細胞レベルで解析することによって、JAK2変異クローンがどのように増殖能を獲得するか、すなわち腫瘍化のメカニズムを解明に取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題の目的の達成のためには、まず、ETや他の造血器腫瘍患者から採取した骨髄液から、造血幹細胞(HSC)や各前駆細胞集団を純化し、シングルセルレベルでの解析を行う必要がある。当初の計画では、シングルセルへの単離作業を、微小流路を利用したFluidigm C1 systemを用いて行う予定としていたが、条件検討の段階において、インプットした細胞に対する解析対象となる細胞の比率が低いことが問題となり、HSCやMegPのような希少な細胞の解析には最適ではない、と判断し、実験手法を変更することとしたため、研究の進捗に若干の遅れを来している。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに採用したBD Rhapsodyでは、20万個以上用意された微小ウェルに対して蒔かれた細胞を回収することで、理論上インプットした細胞の殆ど全ての細胞が解析可能になり、最大約2万個の細胞を解析できる(以前の計画では1実験96細胞)。しかも、解析遺伝子もこれまでの計画の96遺伝子から400遺伝子以上と、より多くの遺伝子の発現を評価できる。この系によって増幅されたcDNA産物を、次世代シークエンサー(illumina Nextseq)を用いてRNAシークエンス(RNAseq)を行うことで、シングルセルレベルでの網羅的遺伝子発現プロファイルを取得する。JAK2V617F変異ゲノムは、転写産物として存在するため、この時点で、正常及び変異クローンを識別することが可能である。 このようにして得られた全トランスクリプトームデータから、1同じJAK2V617F変異クローンで、HSCレベルと、増殖能力を獲 得する前駆細胞レベルの細胞では何が違うのか、2同じ造血幹細胞集団でも、正常クローンと変異クローンではどのようにお異なるメカニズムを利用しているのか、について、バイオインフォマティクス的手法を用いて明らかにする。
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